寺田凛奈が目を覚ますと、芽は既にそばにいなかった。おそらく下の階で遊んでいるのだろう。
彼女は起き上がってからこのスイートルームを見回した。揚城の寺田家の寝室の2倍ほどの広さで、白とグレーを基調としたインテリアデザインだった。母親が強い人物だったことが垣間見える。
洗面を済ませてから、スイートルームに付属の書斎に入ると、そこはとてもきれいに掃除されていて、細部に渡辺家の心遣いが見てとれた。
寺田凛奈は一冊の本を手に取ると、それが生物科学に関するもので、製薬業と関連していることがわかった。母親が夢葉製薬会社を設立した理由がわかる気がした。
突然、部屋のドアが軽くノックされ、寺田凛奈がドアを開けると、石丸和久が慌てた様子で言った。「凛奈さん、病院で問題が起きました！」
寺田凛奈は杏色の瞳を上げて「どうしたの？」と尋ねた。
「先ほど藤本さんから電話があって、老夫人がまだ目覚めていないそうです。あなたが起きたら彼に電話を返してほしいとのことでした。」
寺田凛奈「……」
本当に大事が起きたのかと思ったのに。
彼女は藤本凜人に電話をかけた。通話が繋がると、男性の低い声が楽器のように彼女の鼓膜を打った。「寺田さん、祖母がまだ目覚めていません。」
「申し訳ありません。」寺田凛奈は咳をひとつした。「昨日お伝えするのを忘れていましたが、患者さんの体力が弱っているため、目覚めるのは今週末になるでしょう。」
患者の家族に具体的な状況を伝えなかったのは、確かに彼女のミスだった。
藤本凜人は黙った。「……」
寺田凛奈は昨日、老夫人の体を診察していた時の廊下での口論を思い出し、尋ねた。「あなたの予定に支障はありませんか？」
「それは些細なことです。」藤本凜人は一瞬間を置いてから、突然また口を開いた。「寺田さん、今日は様子を見に来なくていいのですか？」
寺田凛奈は直接尋ねた。「あなたの息子は病院にいますか？」
「……いません。」
寺田凛奈「そうですか。では私が行っても意味がありませんね。患者のすべての数値が正常であれば問題ありません。第一病院の医師たちを信頼しています。看護の面では、彼らの方が私よりも専門的です。」
