まだ部屋に入る前から、中から瀬戸さんの声が聞こえてきた。「しっかり立って、頑張れ!これが基本だ。我々瀬戸門が小坂門より優れているのはここだ。武術は一朝一夕では身につかない。ゆっくりと基礎を固めていく必要がある……」
寺田凛奈がドアを開けて入ると、「寺田芽」がいつの間にか男性用のスポーツウェアに着替えて、馬歩をしているのが見えた。
瀬戸さんは彼女に背を向けて話し続けていた。「私を師匠と仰ぐなら、これからは私の言うことを聞かなければならない。毎朝起きたら必ず30分間馬歩をすること。お前の母親はあまりにも怠け者で、小さい頃から言うことを聞かなかった。お前は彼女を見習ってはいけないぞ……」
ドアの方を向いていて凛奈に気づいた藤本建吾は「……」
彼は唇を噛んで、体を起こした。
瀬戸さんは驚いて「なぜ立ってしまったんだ?もう続けられないのか?お前は……」
後半の言葉はまだ言い終わらないうちに、藤本建吾に遮られた。「ママ。」
瀬戸さんの体が硬直し、ゆっくりと振り返ると、寺田凛奈が壁にもたれかかっているのが見えた。彼女は両腕を無造作に胸の前で組み、杏色の瞳を少し上げて、静かに二人を見つめていた。
瀬戸さんは彼女のボス然とした姿に怖気づいた。「あの、凛奈よ、これは……」
寺田凛奈はだるそうに口を開いた。「じいさん、あんた彼女を脅したりしたんじゃないでしょうね?」
瀬戸さん「……いいえ!」
彼がこれほど断固として言うのを見て、寺田凛奈は藤本建吾の方を見て、躊躇いながら尋ねた。「芽、本当に武術を学びたいの?」
藤本建吾は断固としてうなずいた。
武術を学べば、将来暴君がママをいじめようとしても、ママと妹を守ることができる!
寺田凛奈は少し驚いた。
芽の性格は自分に似て、怠惰で気ままで、束縛されるのが一番嫌いなのに、まさか武術に興味を持つなんて?
寺田凛奈は常に子供の意思を尊重してきた。少し考えてから同意した。「わかったわ。」
そして瀬戸さんの方を向いて「明日の朝7時に、私が彼女を連れてくるわ。じいさん、今日はまだ用事があるから、先に帰るわ。」
言い終わると、彼女は藤本建吾に手を差し出した。
藤本建吾は自然に一歩前に出て、彼女の手を取り、一緒に部屋を出た。