松本旻は滑らかな顎を撫でながら、余計なことを言い出した。「そういえば、一橋逸飛は本当にバカだな。こんなに凄い子を手放して、あんな見かけだけの女を選ぶなんて」
その言葉が落ちた途端、七男の若様から冷たい視線を受けた。
普段から七男の若様の視線は友好的ではないが、松本旻はさっきの一瞥が明らかにいつもより冷たかったと感じた。
彼は即座に姿勢を正し、もう何も言えなくなった。
「これだけしか分からなかったのか?」一橋貴明は白湯を一口飲みながら、低く冷たい声で言った。
松本旻は仕方なく肩をすくめた。「いや、これは私たちのせいじゃないですよ。あなたの可愛い子が手早く証拠を消してしまったんですから」
一橋貴明の唇の端が少し上がり、淡々と言った。「ふむ、彼女がやったとは限らないだろう。彼女は弱い女性だ」
中村少華は疑わしげな目で一橋貴明を見た。「弱い女性?」
彼は七男の若様が馬鹿なわけではなく、自分が馬鹿になったような気がした。
松本旻は大きく目を回した。「それはあなた自身が言ったじゃないですか。彼女が中から出てきて、体に血がついていたって。まさか天から雷が落ちて殺したとでも?」
「それに、あの時間帯の監視カメラの映像が全部消えているんです。彼女以外に誰がやれたというんですか?」
彼は心の中で不思議に思った。この事件は明らかに久我月がやったことなのに、七男の若様は一体何を言おうとしているのか。
一橋貴明は面倒くさそうに目蓋を持ち上げ、軽蔑的に冷笑した。「私が知っているなら、お前たちに調べさせる必要があるか?」
中村少華「……」
松本旻「……」
「あなたが偉いんですね。じゃあ自分で証拠を探してください。なんで私たちに聞くんですか?あなたの下で働いているわけじゃないんですから!」
松本旻は腹が立って、とても正論だと思いながら言い放った。
しかし七男の若様の視線が向けられると、すぐに萎縮してしまった。
一橋貴明は松本旻というバカを相手にする気が失せ、中村少華を見つめながら、突然危険な声色で言った。「それに、あのZ国の傭兵たちは、寒門が送り込んだものだ!」
「何だって?」
中村少華は突然立ち上がり、顔に信じられない表情を浮かべた。