「中村お嬢さん、やっと来てくれましたね!」
三十五歳前後の伊藤哲は中村楽の方へ早足で歩いてきた。彼は中村楽とは旧知の仲で、職業ではなく、習慣的に中村お嬢さんと呼んでいた。
「これが死者の資料です。秘書部の新人秘書で、入社間もなく亡くなりました」
伊藤哲は死者の曽我雪代の資料を彼女に渡した。「遺体は女子トイレで発見されました。確認しましたが、外傷は一切ありません」
とても奇妙な死に方だった。
彼はまた声をかけた。「斉田あきひろ、中村お嬢...中村法医を現場に案内してくれ」
斉田あきひろは人だかりの中から出てきた。彼は署から中村楽に配属された助手で、まだ研修医だったが、勤勉で向学心があり、中村楽も彼を連れて行くのを喜んでいた。
中村楽は頷き、斉田あきひろについて女子トイレへ向かおうとした。
振り返ると、伊藤哲は中村楽の後ろにぴったりとついてくる子供を見て、少し呆気にとられた。「この女の子は...」
中村楽はようやく子供の存在を思い出し、急いで伊藤哲に説明した。「ああ、道で拾った子です。お父さんとはぐれてしまって。お父さんを探してもらえませんか」
鈴木唯一は中村楽に懐いていたが、さっきここで人が死んだと聞いて大変なことだと分かり、中村楽の邪魔をしないように付いていくのを控えた。
彼女は丸い顔を上げて伊藤哲を見つめ、目尻を傲慢そうに上げながら、きっぱりと言った。「最上階に連れて行って。鈴木静海を探したいの!」
久我月は中村楽が事件の捜査に行ったことを知り、レストランでステーキを受け取った後、近くのDLモールをぶらぶらすることにした。
静かな場所でゲームをしようと思っていたが、あるブランドショップの前を通りかかった時、ふと展示されているネックレスが目に入った。
うーん...どこかで見たことがある。
久我月は数歩後ろに戻り、そのブランドショップに向かって歩いていった。
チクタク一
[一橋じじ:モールで何してるの?何か必要なもの?]
彼女は一橋貴明の連絡先名を一橋じじに変更したばかりだった。
というのも、彼女のニックネームが「瘾」で、一橋貴明のニックネームが「上瘾」で、なんとなく変な感じがしたからだ。
でも、新しいニックネームを考えるのも面倒くさかった。