Chereads / 奥様の正体が再び世界を沸かせた / Chapter 62 - 第62章 鼓動する心臓

Chapter 62 - 第62章 鼓動する心臓

「中村お嬢さん、やっと来てくれましたね!」

三十五歳前後の伊藤哲は中村楽の方へ早足で歩いてきた。彼は中村楽とは旧知の仲で、職業ではなく、習慣的に中村お嬢さんと呼んでいた。

「これが死者の資料です。秘書部の新人秘書で、入社間もなく亡くなりました」

伊藤哲は死者の曽我雪代の資料を彼女に渡した。「遺体は女子トイレで発見されました。確認しましたが、外傷は一切ありません」

とても奇妙な死に方だった。

彼はまた声をかけた。「斉田あきひろ、中村お嬢...中村法医を現場に案内してくれ」

斉田あきひろは人だかりの中から出てきた。彼は署から中村楽に配属された助手で、まだ研修医だったが、勤勉で向学心があり、中村楽も彼を連れて行くのを喜んでいた。

中村楽は頷き、斉田あきひろについて女子トイレへ向かおうとした。

振り返ると、伊藤哲は中村楽の後ろにぴったりとついてくる子供を見て、少し呆気にとられた。「この女の子は...」

中村楽はようやく子供の存在を思い出し、急いで伊藤哲に説明した。「ああ、道で拾った子です。お父さんとはぐれてしまって。お父さんを探してもらえませんか」

鈴木唯一は中村楽に懐いていたが、さっきここで人が死んだと聞いて大変なことだと分かり、中村楽の邪魔をしないように付いていくのを控えた。

彼女は丸い顔を上げて伊藤哲を見つめ、目尻を傲慢そうに上げながら、きっぱりと言った。「最上階に連れて行って。鈴木静海を探したいの!」

久我月は中村楽が事件の捜査に行ったことを知り、レストランでステーキを受け取った後、近くのDLモールをぶらぶらすることにした。

静かな場所でゲームをしようと思っていたが、あるブランドショップの前を通りかかった時、ふと展示されているネックレスが目に入った。

うーん...どこかで見たことがある。

久我月は数歩後ろに戻り、そのブランドショップに向かって歩いていった。

チクタク一

[一橋じじ:モールで何してるの?何か必要なもの?]

彼女は一橋貴明の連絡先名を一橋じじに変更したばかりだった。

というのも、彼女のニックネームが「瘾」で、一橋貴明のニックネームが「上瘾」で、なんとなく変な感じがしたからだ。

でも、新しいニックネームを考えるのも面倒くさかった。

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