久我月が出ようとするのを見て、久我深海は老婆のことも構わず、急いで久我月を引き止めた。「月、行かないで、話がある!」
「早く言って」
久我月は冷たく言った。
ポケットからペロペロキャンディーを取り出し、ソファに寄りかかって、目を細めながら、すべてを見下すような傲慢な態度で座った。
久我深海は目に嫌悪感を浮かべたが、彼女を叱る気も失せ、直接本題に入った。「月、お前と一橋様との婚約は破談になったが、妹が嫁ぐことになった。うちは一橋家には及ばないから、持参金を少なくするわけにはいかない。お前の母さんが残した会社を、妹への持参金として譲渡してくれないか」
「そうよ」
松原蘭も急いで言った。「妹は身分が高く、もうすぐ一橋家の嫁になるのよ。お前は勉強もできないし、会社の経営なんてわからないでしょう。会社を妹の持参金にしなさい」
傍らの久我羽は目を転がした。
たかが一つの会社なんて大したことない。
一橋七男若様のベッドに上り詰め、一橋当主奥様になれば、一橋家全てが私のものになるのに、こんな小銭なんて気にするものですか?
世間知らずの俗物たち!
久我深海は書類かばんから書類を取り出して投げ、ペンも投げた。「譲渡契約書はもう用意してある。サインするだけでいい」
「……」
久我月の黒く輝く瞳の底に、殺気が浮かんだ。
今の久我深海が持っているものは全て、実母の鈴木敏が残したものだ。母がいなければ、久我家のご家族は今でも京都で農業をしているはずだ。
別荘を奪っただけでは飽き足らず、母が残した会社まで奪おうというの?
久我月はボールペンを手に取り、赤い唇が邪悪に歪み、ゆっくりと言葉を吐き出した。「あなたたち夫婦は、脳外科に行った方がいいわね」
「何だと?」
久我深海は顔を曇らせた。
この生意気な娘め、遠回しに頭がおかしいと言っているのか?
松原蘭はすぐに興奮し、尻尾を踏まれた猫のように、久我月を睨みつけて聞いた。「月、一体どういうつもり?」
久我月は無関心そうにペンを弄びながら言った。「久我家の全ては、私の母が与えたもの。久我羽にどんな持参金を用意するかは、私には関係ない」
「会社が欲しいなんて、夢見るのもいい加減にしなさい!」
パキッ。