百里紅裳は言葉を失ってしまった。
しかし、考えてみれば、久我月を裏切るなんて、中村楽の性格からすれば、やりかねないことだった。
「それに、中村少華がいるじゃない。彼がいる限り、中村楽は大丈夫よ」久我月は大きな窓際に立ち、外の往来を眺めながら、煙を吐き出してリングを作り、妖艶に笑った。
「薄情な女ね!」
百里紅裳は電話の向こうで目を転がしたが、師匠には見えないと思い直して、やめた。
少し間を置いて、話題を変えた:「池田滝が帰ったけど、石ヶ村の実験はどうするの?」
「放っておきなさい。しばらくは大丈夫よ」久我月は目を細め、少し上がった目尻には、傲慢な色が満ちていた。
「そうそう、暇があったら仕事を引き受けてね。師匠、お金がないの」
一橋邸。
中村楽は一橋家に縛られたまま連れて来られ、しばらくして眉をひそめながら竹内北を見た:「氷男、縄を解いてくれない?手が痛いんだけど」
「お前は犯人だ。犯人にそんな要求をする権利はない」竹内北は冷たく言い放った。
中村楽:「……」
しかし次の瞬間——
竹内北のいつも無表情な顔に、亀裂が入った。
この女は彼の目の前で、縄をほどいてしまったのだ!
自分は誰だ?
ここはどこだ?
目の錯覚か?
竹内北は心の中で三つの疑問を発した後、呆然となった。
「何見てんの?美人見たことないの?」中村楽はゆっくりと縄を外し、竹内北の足元に投げ捨て、片眉を上げて彼を見た。
その態度は、挑発的で傲慢だった。
竹内北の目尻が痙攣した。
もしこの女が中村様の姉でなければ、こんな横柄な態度で、明日の太陽を見させないところだった。
さらにしばらくして……
中村楽は本革のソファーに足を組んで座り、目の前には様々なフルーツが並べられ、手にはピーナッツを掴んでゆっくりと食べていた。とても気持ち良さそうだった。
竹内北と他の警備員たちは、もう気が狂いそうだった。
くそっ……
ここは七男の若様の邸宅なんだぞ!
ビジネス界の大物たちですら足を踏み入れる資格がないのに、運良く入れたとしても、みんな恐れ多くて縮こまっているというのに。