寺田真治の携帯の着信音は、かつて彼と木田柚凪が大好きだった歌手の歌う『欢喜』だった。
しかし、彼が手を伸ばして携帯を取り出そうとした時、木田柚凪が携帯を取り出して電話に出るのを見た。
彼はそこで気づいた。木田柚凪の携帯の着信音も『欢喜』だったのか?
もしそうだとしたら、彼女も彼と同じように、これほど長い年月を経ても、お互いのことを忘れられずにいたのだろうか?
そんな贅沢な想像が浮かんだ瞬間、目の前の木田柚凪の目が輝き、興奮して口を開いた。「ダーリン!あなたが助けてくれたのね!」
「もちろん褒美をあげないと。キスでいい?それとも身を捧げて、一緒に何晩か過ごす?」
「あら、恥ずかしがらないで!ほら、大きなチュッをあげる!ムワッ〜!」
「……食事に誘ってくれるの?問題ないわ!場所とレストラン、送ってね!」
これらを言い終えると、木田柚凪は電話を切り、すぐに立ち上がって興奮して外に向かった。
彼女が去った後、寺田真治はようやく校門の大きな柱の後ろから出てきた。彼の桃の花のような目は彼女が車で去っていく方向を見つめ、瞳に暗い光が揺れていた。
ダーリン……身を捧げる……キスをする……
これらの言葉に全身が不快感を覚え、まるで体内に時限爆弾があるかのようだった。
彼は考えることもなく、自分が何をしているのかも分からないまま、いつもは冷静沈着な人物だったのに、この時ばかりは突然車に乗り込み、彼女の後を追った。
彼は見に行きたかった……彼女が一体どこに行くのか!
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木田柚凪は大型SUVを運転し、ゆったりと五光十色クラブにやってきた。
車を停めた後、彼女は顔を上げてこの見慣れた場所を見つめた。
ここは裕福な貴族たちがよく遊びに来るクラブで、長年ずっとここにあった。
若い頃、彼女は母親が金持ちの家に嫁いだ時についてきたお荷物で、堀口泉弥が最も好んでやったことは、彼女をここに連れてくることだった。
なぜなら、彼女は入ることができなかったから。
彼女には身分も、VIPカードもなく、ただ入り口で堀口泉弥が思い出すのを焦りながら待つしかなかった。
その後、彼女はもう来なくなった。