人々が一斉に振り向くと、そこには長身の姿がさりげなく立っていた。少女は可憐な顔立ちで、杏色の瞳を少し伏せ、まるで眠たそうに元気がないようだった。
しかし、人々に傲慢な印象を与えていた。
彼女は葱のように白い指をポケットに入れ、白い紙に包まれた黒っぽい薬丸を取り出した。簡素な白い包装紙を破ると、二本の指でそれを挟み、目を上げて高岡さんを見た。「莫愁丸です。間違いありません」
高岡さんは彼女を見て瞳孔が収縮した。少女の顔立ちは渡辺詩乃にあまりにも似ていて、彼を恍惚とさせた。まるで当時、あの若い少女が自分の前に立ち、得意げに言ったかのようだった。「莫愁丸、私が作り出したわ!」
群衆の中から誰かが叫んだ。「福山先生、見てください!あれは莫愁丸ですか?」
福山先生は業界で有名な漢方医だった。彼はその言葉を聞いて一歩前に出て、少女の手からその薬丸を取り、少し欠けた部分を鼻に近づけて慎重に嗅いだ。
しばらくして——
「莫愁丸です!しかも新しく作られたもののようです!」
「何?新しく作られた?この少女は渡辺家の人のようですが……」
「もしかして、莫愁丸は本当に渡辺詩乃が作ったのか?」
「……」
この言葉が出ると、現場は静まり返った。
渡辺昭洋は目を輝かせ、すぐに口を開いた。「高岡さん、もう何も言えないでしょう!」
高岡さんはすぐに平静を取り戻し、測り知れない表情で口を開いた。「当時、私は渡辺詩乃と一緒に薬を作っていたが、彼女も莫愁丸を作り出していたとは……」
自分の面子を保とうとしているようだった。
「ふん」
寺田凛奈は軽く笑った。言葉は発しなかったが、それでも高岡さんの顔は火照るように、まるで数回平手打ちされたかのようだった!
みんなお互いを見合わせた。
突然、福山先生が一歩前に出て尋ねた。「……渡辺さん、この薬丸は売っていますか?私は10万円で買いたいです!」
この言葉が出ると、他の人々も反応し、渡辺昭洋の方に押し寄せた:
「15万円出します!」
「50万円出します!」
「100万円!」
「……」