心海の顔色が一瞬で蒼白になり、彼女は頭を押さえ、胸も押さえた。
心海のお母さんはすぐに彼女の異変に気付いた。「心海、どうしたの?」
小さな子供は自分のどこが具合悪いのか言えず、ただ口を開いた。「ママ、とても気分が悪いの。」
心海のお母さんは急いで彼女を抱きしめ、思わず不満を漏らした。「全部あの寺田凛奈のせいよ。何を言ってるんだか、わざと怖がらせるなんて!」
彼女は焦って目が赤くなり、さらに篠崎冠介に不満を言った。「この子は誰に似たのかしら、こんなに臆病で。さあ、ママが寝かせてあげるわ。」
そう言いながら、顔色の悪い心海を抱いて2階の寝室に向かった。
篠崎冠介は小さな心海が苦しそうな様子を見て、心の中でさらに怒りが募った。
彼は渡辺光祐を見て言った。「さっきも言ったが、どちらかだ。俺が出て行って、みんなも俺の顔を立ててくれるだろう。お前の試合を1ヶ月後に延期する。だが、その寺田凛奈という奴を連れてこい。俺が懲らしめてやる!それとも、お前はとっとと出て行け!」
渡辺光祐は拳を握りしめた。
彼は篠崎冠介を見つめ、しばらくしてから冷たい声で言った。「篠崎さん、失礼します。」
渡辺光祐は足を引きずりながら出て行った。彼が去った後も、篠崎冠介の怒りは収まらず、側にいた人が口を開いた。「篠崎さん、あの若者も情に厚い人物ですね……」
篠崎冠介は鼻を鳴らした。「誰があんな姉を持つことになったんだ?俺はあの女に手を出せないから、弟に当たるしかないんだ!」
そう言った後、彼は頭を下げた。「まあいい、あの若者は筋が通っている。3日後に試合を続行すると伝えろ。だが、彼は彼で、渡辺家は渡辺家だ。」
これは渡辺家を守るという意味だった。
部下は頷いた。「はい。」
篠崎冠介は実は黒社会の中で最も強い勢力ではなかったが、みんなが彼を信頼していたのは、彼が義理を重んじ、人として筋を通していたからだ。
今のように、一人の女性のせいで渡辺光祐に怒りをぶつけたとしても、まだ彼の家族を守ろうとしている。
そうでなければ、みんなで渡辺家に押し掛けていったら、渡辺家も良い目を見なかっただろう。
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