臼井陽一は笑って首を振った。「分かりません。」
寺田凛奈は「ああ」と声を出し、気にしなかった。
臼井陽一は不思議そうに尋ねた。「知りたくないの?」
寺田凛奈はそっけなく口を開いた。「どうでもいいです。」
彼女は本当にどうでもよかった。
幼い頃からそんな家庭で育ったので、彼女にとって家族愛はあってもなくてもよかった。
母親は彼女にとって、最大の価値は彼女を産んだこと、そして学ぶべき多くの資料を残してくれたことだった。
父親……
この言葉は幼い頃から寺田健亮のことだったが、今は彼ではなくなり、それほど感情もなかった。
寺田凛奈はボイスレコーダーをポケットにしまい、改めて臼井陽一を見た。「ありがとうございます。」
「どういたしまして。」臼井陽一はため息をついた。「当時、あなたの母親が私たちの家族にあなたの世話を頼んだんです。考えてみれば、臼井家の失態でもあります。」
臼井陽一が渡辺詩乃のことを話すとき、顔には賞賛の色が浮かんでいた。
二人が話している時、突然石山が近づいてきた。彼は相変わらず無表情で、笑ったことがないかのようだった。二人の会話を遮って言った。「寺田さん、臼井先生、もう少し調書を取らせていただきたいので、ご協力をお願いします。」
調書?
寺田凛奈は一瞬驚いた。
臼井陽一も思わず口を開いた。「ただの不法侵入で、まだ何か調書を取る必要があるんですか?」
石山という名の警察官は顔立ちが厳しく、輪郭がはっきりしていた。彼の話し方は丁寧ながらも命令的で、長く高位に就いている人物のようだった。「お二人には手続きにお付き合いいただきたいと思います。」
寺田凛奈は、この警察官は手ごわそうだと感じた。
彼女は頷いた。
臼井陽一も反論せず、そして二人は一緒に警察署に連れて行かれ、さらに別々の部屋に分けられた。
真っ暗な鉄の部屋で、寺田凛奈は気ままに座っていた。彼女のボス然とした態度に、数人の警官は顔を見合わせた。
普通、警察署に来ると震え上がるものだが、この人は観光地にでも来たかのようだった。