個室は静まり返っていた。
藤本凜人は深い眼差しで寺田凛奈をじっと見つめ、ゆっくりと尋ねた。「どんな苦衷があるんだ？」
寺田凛奈はこの男の考えを読み取れず、一気に事情を説明するのは危険だと感じた。ゆっくりと進めるべきだ。もし真相を告げてしまったら、この傲慢な男が二人の子供を奪い、会わせてくれなくなったらどうしよう？
寺田凛奈は確信のないことは決してしない。特に二人の子供に関することは慎重だった。彼女は目を伏せて言った。「この世に子供を愛さない母親はいません。もしかしたら、彼女は出産直後に子供を奪われたのかもしれません。その後何年も子供を探し続けていたかもしれません。」
藤本凜人は顎を引き締めた。「じゃあ、教えてくれないか。彼女はどうやって俺の子供を身籠ったんだ？」
どうやって身籠ったのか？
寺田凛奈にはわかるはずがない！
彼女は首を振った。「あなたにもわからないなら、相手もわからないかもしれません。」
言い終わると、寺田凛奈は顔を上げた。血の気のない蒼白な頬に、漆黒の瞳が輝いていた。その目には暗い光が宿っていた。「もちろん、彼女を弁護するつもりはありません。子供を産んだ以上、その後のことを予想できず、子供を守れなかったのは母親として失格です。」
この5年間、彼女は毎日後悔の中で過ごしてきた。
当時、妊娠がわかった時、彼女は海外にいる叔母と連絡を取った。叔母はすぐに帰国して彼女を連れて行こうとしたが、彼女は国内で薬の研究をしていたため離れたくなかった。9ヶ月後に戻ってくるよう叔母と約束した。
寺田家のような冷淡な人々が、彼女の子供の面倒を見てくれるはずがない。
しかし、どんなに計算しても、早産になるとは思わなかった。さらに、寺田健亮がそこまで悪辣だとは想像もしていなかった！実の祖父が、どうやって赤ん坊を自ら埋めることができたのか？
その後、彼女は何度も悔やみ、自責の念に駆られたが、何の役にも立たなかった。
藤本凜人は彼女を見つめ、彼女が無表情でありながらも悲痛な表情を浮かべているのを見た。彼は当時何が起こったのか尋ねたかったが、突然言葉が出てこなくなった。
芽への溺愛を見れば、彼女が息子を捨てるような人間でないことはわかる。
