物業?
物業は毎年挨拶に来るけど、大体夜だよね。昼間に来て邪魔するわけないでしょ?
それに、もうすぐ12時になるのに、寺田さんはまだ来ないの?
もしかして、来る気がないのかな?
この考えが頭をよぎると、藤本凜人の胸の内に急に苛立ちが湧き上がった。彼は突然立ち上がり、細長い目で玄関をじっと見つめ、目尻の涙ぼくろには冷たさと不満が滲んでいた。
彼のその様子を見て、藤本悠佑はスマホでキングオブグローリーをしながら尋ねた。「兄さん、誰か待ってるの?」
藤本凜人は考えもせずに否定した。「いいや」
自分が女に近づく機会を与えたのに、彼女がその機会を掴まなかったのは彼女の損失だ。自分には何の関係もない。
明らかにあの女が自分に惚れているのに、どうして今、不安になっているのは自分なんだ?
藤本凜人は呆然とした。
玄関にいた今泉唯希は、二人の会話を聞いて唇の端に笑みを浮かべた。
最初に寺田凛奈を見たとき、藤本さんに招待されたのかと思ったけど、そうじゃないみたい。きっと今日が藤本さんの誕生日だって聞きつけて、わざわざ取り入ろうとしてきたんだわ!
本当に厚かましい。
子供まで産んでるくせに、まだ藤本さんを狙うなんて!
今からドアさえ通せないようにしてやる!
そう思った瞬間、藤本建吾が部屋から飛び出してきた。「パパ、ママを入れないって本当?」
藤本凜人の目が沈んだ。突然何かに気づいたように、大股で玄関に向かった。
彼が急にドアを開けると、寺田凛奈がつまらなそうに外に立っていた。彼女は両手に何も持たず、だらしなく彼を見ながら、低く柔らかい声で言った。「藤本さん、今日は女性客をもてなす余裕がないそうですね?」
なぜか、彼女を見た瞬間、藤本凜人は心の奥がかすかに震えた。さっきまでの憂鬱な気分が一掃された。
彼は顔に笑みを浮かべて言った。「確かに他の女性客をもてなす余裕はありません。今日は特別な女の子のお客様が来るので……」
彼は視線を寺田凛奈の顔から外し、やっと彼女の隣に立つ小さな人影に気づいた。そして、彼は口元を引きつらせた。