高倉海鈴は近寄って、真剣な眼差しで言った。「八尾夢子があなたを利用したのは、あなたが愚かだからじゃなくて、純粋すぎるからよ。それは決して間違いじゃないわ」
「彼女はあなたの純粋さを知っていたからこそ、利用したの。あなたは彼女が自分に優しいと思って、心から接していた。彼女の裏の目的を疑うこともなかった。でも、それは良いことでもあるわ。少なくとも、あなたの目には世界が純粋なものとして映っているんだから」
藤原明は彼女の優しい声に魅了され、高倉海鈴のわずか数言の慰めで心が晴れやかになり、暗かった瞳が輝きを取り戻した。
高倉海鈴の言葉は全て心からのものだった。藤原明はただの純粋な青年で、誰かが優しくすれば、惜しみなく尽くす性格だった。だからこそ八尾夢子は彼に目をつけ、その純粋さを利用したのだ。
しかし、その言葉を聞いた藤原明は、突然涙をポロポロと流し始めた。
彼女は口角を引きつらせ、慌てふためいた。どうすればいいの?
家に帰った後、高倉海鈴は心が落ち着かなかった。藤原明は絵を描くのが好きだと思い出し、ちょうど手元にある絵なら、彼を元気づけられるかもしれないと考えた。
急いで立ち上がって探し始め、倉庫から埃をかぶった数枚の絵を見つけ出した。
翌朝早く、彼女は急いでそれらを藤原明のもとへ持って行った。
高倉海鈴は彼の頭を撫でながら言った。「明、私、ますますあなたのことが好きになってきたわ。最初に会った時はトラブルを起こしたけど、それでも私を受け入れてくれて、私のデザインした服も買ってくれて、本当に嬉しかった。あなたが絵を描くのが好きだって知ってるから、この絵を何枚か持ってきたの。倉庫に置いてあったから汚れてるけど、でも絵はちゃんとした絵だから。もう悲しまないで」
藤原明は既に悲しみから立ち直っていたが、彼女の言う絵にはあまり興味を示さなかった。
彼はどんな絵でも良いというわけではなく、高倉海鈴が何か傑作を持ってきているとは思えなかった。でも、彼女の気持ちを考えれば、必ず受け取るつもりではいた。
しかし、高倉海鈴が布を取った時……
藤原明は目を見開いた。「これを倉庫に置いていたの?」
これは天才画家・山下涼介の絵じゃないか!それを倉庫に放置していたなんて!
高倉海鈴:「?」