その後、木村沙織のアシスタントが近づいてきた。「高倉さん、ここはオーディション会場です。来るべきではありません。木村さんと役を争うなんて考えないでください!」
高倉海鈴は冷笑した。「あなた、青山綾子の役のオーディションを受けるの?」
脚本の中で彼女が最も好きなキャラクターは青山綾子だった。彼女は悲惨な運命を辿る女性で、幾度もの裏切りと見捨てられを経て最終的に闇落ちする。感情表現が豊かで、このドラマの伏兵的な存在だった。
谷口敦のオーディション見学の誘いを受けたのも、この役に相応しい役者を選びたかったからだ。
しかし、木村沙織はこの役が自分に内定していると言うのか?
木村沙織は得意げに言った。「高倉海鈴、私にはバックがいるの。だから青山綾子は絶対に私のものよ!諦めなさい!帰らないなら、追い出させるわよ!」
木村沙織のアシスタントは不機嫌な顔で言った。「高倉さん、これ以上居座るなら、強硬手段を取らせていただきます!ニュースになっても、恥をかくのはあなたですよ!」
木村沙織が手を振ると、数人のボディーガードが駆け寄り、高倉海鈴を取り囲んだ。
高倉海鈴は軽く笑った。「木村沙織、本当に私と敵対するつもり?」
そう言うと、高倉海鈴は皆をすり抜けて立ち去った。
木村沙織は罵声を浴びせ、マネージャーとアシスタントが慌てて宥めた。
「あの高倉海鈴、何が偉そうなのよ。バックがいるとしても、山本社長より強いわけないでしょ!」
木村沙織は息を整えてから、小声で言った。「藤原家はスポンサーとは言え、山本社長は5000万円も投資してるのよ。脇役一人くらい決める権利はあるはず。監督だってこの投資を得るために、絶対に私にこの役を与えるわ!」
……
高倉海鈴は回り道をして、オーディション会場に入った。
監督は高倉海鈴に会ったことはなく、谷口敦の関係者だと知っているだけだった。彼女を一瞥したが、何も言わなかった。
青山綾子役を演じる数人の若手女優を見たが、どれも適役ではなかった。高倉海鈴は出演者リストに目を通し、思わず口元に笑みを浮かべた。
木村沙織の名前がはっきりと書かれていた。