ふと思い出したように、牧野民は恐る恐る尋ねた。「あのチップの移動ルートは、匿名で送ってきたのはあなたですか?」
鈴木月瑠は美しい眉を少し上げ、気ままな口調で言った。「そうでなければ、あなたたちにチップの動きが分かるはずがないでしょう?」
「月瑠姉!もしデルタにバレたら、あなたがやったって...」
言葉が終わらないうちに、鈴木月瑠に遮られた。
鈴木月瑠の目元には邪気が漂い、目の下には赤い血管が浮いていた。「バレたらどうだというの?私に手を出す勇気なんてないわ!」
「...」
牧野民は返す言葉がなかった。
彼の月瑠姉はいつも傲慢で横柄だが、そうできる実力は確かにあるのだ。
鈴木月瑠は以前デルタで、セキュリティセンターの主任エンジニアを務めていた。彼女なしでは、デルタは今の地位にはなかったはずだ。
デルタの連中があまりにも厚かましかったからね。
牧野民は上層部に直接月瑠だと言えず、遠回しに切り出した。「今は上層部もまだあなただとは知りません。でも押さえきれないと思います。だから...」
国のお偉方に謝罪に行ったらどうですか、許してくれるかもしれませんよ。
鈴木月瑠は唇の端を少しつり上げ、淡々と言った。「あなたが押さえる必要はないわ。知らないふりをしていればいい。私のところまで辿り着けるなら、それは彼らの実力ってことよ」
彼女は牧野民を一瞥して言った。「この件では、栗本放治兄弟が巻き込まれないようにするだけでいい。残りは私が処理するわ」
「でも...」
牧野民は眉をしかめた。「いや、今なんて言いました?栗本放治兄弟?どうして彼らが関係あるんですか?」
鈴木月瑠の表情は相変わらず無表情で、淡々と言った。「栗本放治は私の彼氏の友達よ。四捨五入すれば、私の友達ってことになるわ」
「私の彼氏は私の大甥っ子で、さらに四捨五入すれば、栗本兄弟も私の大甥っ子ってことになるわ」
「だから、親族で争うわけにはいかないの」
言い終わると、彼女は呆然とする牧野民を見た。
彼氏の友達ならまだしも、どうして大甥っ子になるんだ?
いや、彼氏が大甥っ子なの?