宴会場に戻ると、人々が遠藤信之を褒め称えているのが聞こえてきた。「遠藤さんはすごいですね。小原舟先生の雲書を手に入れられるなんて!」
「あれは以前オークションに出された雲書の字帖ですか?」
「まあ!本当に素晴らしい手腕ですわ!」
「真筆ですよ!これこそが雲書の真筆なんです。鈴木月瑠さんのさっきのは、ただ上手く模写しただけですよ!」
「……」
遠藤信之は箱から書画を取り出し、鈴木大御爺さんに見せるために広げた。
その場にいた専門家もそうでない人も、驚きの声を上げ、そして目を閉じてお世辞を並べ始めた。
「これが噂の雲書ですね!なんて素晴らしい筆さばきでしょう。さすが書道の大家ですね!」
「鈴木月瑠さんが書いたものよりずっと良いわ……」
「……」
まだ書画を抱えていた小泉先生は一瞥して、口角を引きつらせた。
何が良いというのか、むしろ月瑠が書いたものの方が良いではないか。
ただ小原舟が最初に創り出したものだから芸術的価値が高いだけで、小泉先生は月瑠の書いた雲書と小楷の方が好きだった。
月瑠も小原舟の雲書を一瞥して、呆れた表情を浮かべた。
これは彼女が初めて書いた雲書で、当時印鑑を持っていなかったので、たまたま小原舟の印鑑を借りて押しただけだった。
当時は犬の爪跡のようだと思い、自分でも要らないと思っていたのに、小原舟が宝物のように持ち帰ってしまった。
少なくとも今の自分の書は、当時よりもずっと成熟している。それなのに、これらの人々はまだ良くないと言うのか?
本当に教養のなさが仇になるものだ!
……
鈴木家の別の小部屋。
月瑠が行くと、栗本寧が縄で縛られているのが見えた。しかし彼女は落ち着いた態度で、手足を縛られていても少しも慌てる様子はなかった。
「あなたが何を言っているのか分かりません」
「たとえ海外で感染症が深刻でも、私は本国民です。帰国したいのに、国が帰らせてくれないなんてことがありますか?」
「……」
一橋貴明はソファに座ってスマートフォンを弄っていた。その威圧的なオーラは、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。