飛墨から借りたドレスは壊れてしまったものの、自分の気に入ったドレスに着替えて、中村霜の気分は良かった。
金子瑠衣は感動して声を上げた。「すごく似合う!まるであなたのために作られたみたいね、本当に素敵!」
「白石おばさんは目が肥えているからね」中村霜は微笑んで、少しきつめのウエストに手を這わせた。少し息苦しく感じていた。
金子瑠衣は羨ましそうに言った。「まあ、目が肥えているのはそうだけど、あなたが綺麗だからこそ、このドレスが似合うのよ」
中村霜は微笑むだけで何も言わず、二人は外に出た。
……
鈴木月瑠はまだ眠れなかった。
途中まで歩いていくと、監察庁の事務局長の牧野民が近づいてきた。
「月瑠、月瑠……」牧野民はここで鈴木月瑠に会えるとは思っていなかったらしく、驚いて言葉を詰まらせた。
でも考えてみれば、鈴木月瑠は鈴木家の子供なのだから、ここにいるのは当然だった。
鈴木月瑠は「牧野おじさん」と呼びかけた。
牧野民は何かを考えているようで、苦しそうに髪をかきむしった。「あの...月瑠、ちょうど良かった。聞きたいことがあるんだ」
例のチップの件について。
白色基地でチップが突然なくなり、しかも鈴木月瑠が何の反応も示さなかった。これが彼女の仕業でないはずがないと、死んでも信じられなかった。
鈴木月瑠は柱にゆったりと寄りかかり、顎を上げた。「うん、どうぞ」
牧野民が推測できることは分かっていたが、もう遅かった。チップはすでに小林城に渡っていた。
牧野民は眉間を揉みながら尋ねた。「月瑠、チップの件は知っているよね?正直に言ってくれ、これは君の仕業なのか?」
鈴木月瑠以外にこんなことができる人物は考えられなかった。
「私がやりました」鈴木月瑠は頷いた。
牧野民は「……」
いや...もう少し控えめにできなかったのか?これは誇れることなのか?
「どうして突然チップを持ち出したんだ?欲しければ一言言えば良かったじゃないか」
牧野民は我慢できずに聞いた。「まさか、デルタに脅されてこうなったのか?」
鈴木月瑠の立場は特別だった。
彼女はデルタをこの地位まで導いた重要人物であり、科学研究基地の重鎮でもあった。