彼女は裳と中村少華が一緒にいることを前から知っていた。前回、久我月も二人を見かけたのだ。本来なら久我月は彼女の記憶を呼び覚ましたかったのだが。
でも考え直してみると、呼び覚まさなければ、大きなお年玉がもらえるかもしれない。
百里紅裳の記憶を呼び覚ましたら、この小さな借金取りは毎日久我月からお金を要求してくるだろう。
久我月は最近とても貧乏で、あの子たちの実験プロジェクトがあまりにもお金がかかりすぎて、甥っ子に「身売り」するところまで追い込まれていた。
……
栗本放治はすぐにチップが盗まれたという知らせを受けた。
秘書は知らせを受けるとすぐに栗本放治を探し、深刻な面持ちで言った。「三男若様、大変です。基地のチップが盗まれました!」
「四男若様がちょうどそちらに行かれた直後にチップが消えました。基地側は四男若様が盗んだのではないかと疑い、四男若様を拘束しています。」
秘書が言う四男若様とは、栗本放治の双子の弟、栗本靖のことだった。しかし外部の人々は栗本放治にこの双子の弟がいることを知る者は少なく、栗本家には栗本寧という四女がいると思われていた。
漢方薬を飲んでいた栗本放治は、これを聞いて急に表情を曇らせた。「チップが盗まれただと?」
秘書は憂いに満ちた表情で言った。「チップの盗難は国際研究院の仕業に違いありません。しかし四男若様がちょうど基地に行かれたタイミングでこの事件に遭遇してしまいました。」
栗本靖も本当に運が悪かった。基地に着いたばかりでこんな大事件に巻き込まれるとは。
基地側も誰が犯人なのか突き止められず、上層部への説明のために栗本靖を身代わりにしようとしているのだ。
栗本放治は磁器の茶碗の縁を掴む指が白くなっていた。それは不健康な白さだった。
彼の眉間に冷たい色が宿り、異常なほど冷たい口調で言った。「我が栗本家に罪を着せようというのか?そんな度胸があるとはな。」
「基地の主要勢力は司家です。四男若様を救出するのは確かに難しい状況です。」秘書は正直に答えた。
栗本放治は冷ややかに笑った。「どいつが我が栗本家の者に手を出す度胸があるのか、見てやろうじゃないか。」