彼は心臓がドキドキと止まらず、まるで初恋の少年のように、少し戸惑っていた。
ああ、彼は本当に恋に落ちたばかりだった。
久我月の脈を診ているのは左手首で、膝の上に置いた右手は、少しずつ握り締められ、緊張で耳まで赤くなっていた。
久我月は特に問題を見出せなかったが、確かに彼の心拍は速かった。彼女は手を伸ばして彼の心臓に触れようとした。「ここが痛いの?」
一橋貴明に触れる前に、手首を彼にぐっと掴まれた。
男の耳が真っ赤になり、何か言おうとしたが、おそらく自分の唾を詰まらせてしまい、激しく咳き込んだ。
「一体どうしたの?肺結核?」
久我月は彼が肺を咳き切ってしまうのではないかと心配になり、急いで手を伸ばして、背中をさすった。
しかし思いがけないことに、一橋貴明の咳はさらにひどくなり、まるで肺を吐き出してしまいそうな勢いだった。
外にいた竹内北は若様の咳を聞いて急いで近づいてきたが、一歩踏み出したところで、久我月が若様の背中をさすっているのを見た。
二人の関係が一歩進んだのを見て、彼は静かに、足を引っ込めた。
「大丈夫だ。」
一橋貴明は咳で顔を赤くしながら、少し落ち着いてから言った。「もしあなたがこれ以上僕に触れ続けたら、僕は自制を失うかもしれない。」
久我月:「???」
彼女は感情のない声で「ああ」と言った。「じゃあ触らないわ。どうせ診察料はもらったし、私は寝に戻るわ。」
こんなに面倒な甥っ子は見たことがなかった。
ふと母の録音を思い出し、母はこの甥っ子がこんなに面倒だということを知っていたのだろうか?
「月瑠。」
一橋貴明は久我月を呼び止めた。
彼は喉の痒みを抑えて、もう咳をしないようにし、久我月の...ぴよぴよちゃんを熱っぽく見つめながら:「月瑠、胸が痛いんだ。もう一度診てくれないか。」
久我月は多くの患者を診てきたが、一橋貴明ほど面倒な患者に出会ったことはなく、特に今の彼の死にそうな様子を見ると。
なぜか、少し心が痛んだ。
おそらく母の録音を聞いたばかりだったから、一橋貴明にそんなに冷たくできないと感じた。
結局、多くの男性が恋愛で騙されると自殺を考えるものだ。一橋貴明は自殺したりしないよね。