遠洋グループとの今回のプロジェクトは大きな案件で、各部門の幹部たちは慎重に対応していたが、この方だけは相変わらず落ち着いていた。
彼らは中村少華の気性をよく知っていたが、催促する勇気もなく、仕方なく中村静加にドアをノックさせた。
「何を急ぐんだ」
中村少華は冷ややかに言い、全く焦る様子はなかった。
中村静加：「……」
彼はソファに腰を下ろし、スマホをいじり始めた。外では幹部たちが首を長くして待っていた。
コーヒーを飲み終わってから、やっと中村少華は立ち上がり、椅子の背もたれに掛けていたスーツの上着を手に取った。中村静加は彼の後ろについて行った。
中村少華がようやく出てきたのを見て、外で待っていた人々は慌てて笑顔を作って挨拶した。中村少華は軽く頷いた。
エレベーターに乗り込むと、皆は息を殺し、まともに呼吸もできないほどだった。中村少華の機嫌を損ねないように気を付けていた。
エレベーターを出たとたん、中村少華の携帯が鳴り出した。
彼は携帯を取り出して見て、眉をしかめた。
彼らのような超セレブの個人番号は、家族や親友しか知らないはずで、部外者が手に入れることはできないはずだった。
誰からの電話だろう？
もしかして久我月が書道の作品を催促しに来たのか？
そう思うと、中村少華は唇を引き締めて電話に出た：「もしもし、どちら様ですか？」
「こんにちは、中村さんでしょうか？」
「……はい」
中村少華は呆れた。
彼の個人番号まで手に入れておきながら、中村少華かどうか確認するなんて。
おかしな話だ。
花を届けに来た配達員は今、グループ本社のすぐ近くで、ロビーの方を見ていた。
顧客からの指示を思い出し、彼は神秘的に言った：「中村さん、お客様宛のお荷物がございますので、受け取りにお越しいただけますでしょうか」
中村少華は頭に黒い線が走った。久我月からの催促かと思ったのに違った。イライラした様子で言った：「俺は荷物なんか頼んでない！」
その声は少し大きかった。
配達員はスピーカーフォンにしたのかと思い、携帯を見たが、スピーカーフォンにはなっていなかった。
なのになぜ目の前にいるかのような声が？
