小泉先生に話す機会を与えず、患者を悪化させたと思い込んでいた伊藤明は、薬箱を持って手術室の方を見つめながら急いで言った。「だから言ったでしょう。彼女はまだ若い娘で、二十歳そこそこなのに、どうして診察なんてできるはずがありますか?」
「中村次男の若様と松本様に早く伝えてください。私は一橋さんを全力で助けますが、久我月は若くて分別がないので、警察には寛大な処分をお願いしたいと…」
「伊藤漢方医、誤解です、誤解ですよ!」
小泉先生は久我月が誤解されているのを見て、急いで口を開いた。「久我月さんは一橋さんを治療して、一橋さんは既に目を覚まし、体の数値も問題ありません!」
伊藤明の足が急に止まり、信じられない様子で目を見開いた。「何?久我月が本当に一橋さんを治したの?一橋さんが本当に目覚めたの?」
「はい、一橋さんは目を覚まして、私たちに出て行くように言われました。久我月さんは本当にすごかったです。三回の鍼治療で、七男の若様は何ともなくなりました!」
「……」
伊藤明の顔色が真っ白になった。頬は火照っているのに、顔色は血の気が全く失せていた。
最終的な結果で面目を失ったが…彼は本当に誤診してしまったのだ!
医者が一度誤診すれば、それは庸医となってしまう。この件が広まれば、これからは伊藤明の名声は終わりだ。さらには大村先生まで巻き込んでしまう!
もし中村次男の若様が本当に彼に一橋さんの治療をさせていたら、一橋さんが彼のせいで何か問題が起きていたら…
「私は…本当に無能です!」
伊藤明はソファーに崩れ落ち、頭の中がぐるぐると回り、背中が冷や汗で濡れるのを感じた。
完全に自閉状態に陥っていた。
小泉先生は伊藤明のその様子を見て、慰める勇気も出なかった。
伊藤明が泣きそうな自閉状態になっているところに、ちょうど携帯の着信音が鳴った。名医大村からの電話だった。
電話に出るや否や、師匠が尋ねてきた。「伊藤君、一橋さんの病気は治ったかね?治ったなら、すぐに安平堂に戻ってきなさい。患者が多すぎて、君の師兄たちが手一杯なんだ。」