その資料には他の国のデータも含まれており、久我月は他国の遺伝子バンクにハッキングし、世界中の遺伝子バンクから希少血液型のスクリーニングを行った。
コンピューターの計算には30分以上かかり、計算量は尋常ではなかった。この30分の間、久我月はゲームを一戦こなした。
計算が終わった。
画面は真っ白で、何も表示されていなかった。
久我月はこの結果を見て眉を上げたが、特に驚きはなく、ただ心の中で栗本放治の運命の厳しさを二度目に感じた。
物理学界で最も若い科学者だったのに、この病気にかからなければ、今頃は物理学界の教授クラスの大物になっていたはずなのに、なのに……
久我月は本来関わりたくなかったが、栗本放治の病状がデルタの物理実験室と関係があるのではないかと疑っていた。
しかし向こうに聞くことはできない。なぜなら……彼女はすでにデルタを裏切って出てきたのだから!
画面の空白データを見つめながら、久我月は内心焦りを感じていた。
彼女は小春心な性格で、栗本放治とは数回会っただけだったが、心の奥では、彼に死んでほしくないと思っていた。
少し考えてから、久我月は弟子の伽藍にメッセージを送った。
[瘾:医学研究所が年始に新しい特効薬を開発して、まだ試験段階だったよね?]
[伽藍:???何のことかわかりません]
久我月は伽藍から送られてきた一連の疑問符を見て眉をひそめ、もう一度メッセージを打った。
[瘾:とぼけないで。RBC2号のことよ。何本か手に入れてちょうだい]
RBC2は赤血球生成を促進する薬剤だが、まだ試験段階で臨床使用されていない。これが唯一、栗本放治を助けられる方法かもしれない。
[伽藍:師匠、見間違いじゃないですよね?RBC2を何に使うんですか?]
[伽藍:ご存知の通り、医学研究所はこの試薬を厳重に管理してます。以前なら方法があったかもしれませんが、今の師匠は……]
[伽藍:あの老いぼれたちはまだ師匠を諦めてないとはいえ、今更戻って何かを持ち出そうとするなんて、しかもあんなに厳重に管理されているRBC2号なんて、まさに夢物語です]
[伽藍:私のところにも赤血球を刺激する薬がありますが、持っていきましょうか?]