池田滝は久我月の携帯を一瞥して、弱々しく注意を促した。「解像度は1080pで十分だよ。そうしないと目に悪いし、ほら、目が充血してるじゃないか」
久我月は池田滝の言葉を聞き流し、LINEのメッセージに返信を続けながら、ゆっくりと言った。「...違うわ、昨夜眠れなかっただけ」
不眠？
池田滝は疑わしげな目つきをした。
どうして眠れなかったんだろう？
彼が知る限り、外部からの妨害要因がなければ、月瑠姉は一日中ぐっすり眠れるタイプだった。
外部からの妨害があっても、自動的に無視できるはずなのに。
昨夜眠れなかった？
何かを思い出したのか、池田滝の表情が妙になり、小声で尋ねた。「月瑠姉...もしかして昨夜、エッチな夢でも見たんじゃ...」
久我月の頭上にゆっくりとクエスチョンマークが浮かんだ。
「何を考えてるの？無料でCT検査してあげましょうか」久我月は目を細め、漆黒の瞳が冷たく光り、池田滝は怖気づいて黙り込み、黙って立ち上がって彼女の食事を作りに行った。
師匠を拝んだというより、ご先祖様を拝んで帰ってきたような気分だった。実の母親にも作ったことのない料理を、ここでは進んで作らなければならないなんて。
久我月は栗本放治のLINEを開き、友達追加のメッセージに「久我月です」という一文を添えて送信し、それから一橋貴明へのメッセージに返信した。[ごめんなさい、これから食事なので、また今度]
いつもなら即レスする一橋貴明が、今回は返信がなかった。普通なら少し変だと感じるはずだが、久我月は鈍感で、特に違和感を覚えなかった。
そのとき、安田おじいさんからLINEが来た。[月瑠や、一橋家の坊ちゃんが病気だって聞いたよ。小池さんがお前のLINE聞いてきたから教えといたからな。後で追加するはずだ]
久我月の思考回路が一瞬停止し、やっと一橋貴明が即レスしなかった理由が病気だったからだと理解した。
でも何故か、胸が少し苦しかった。手で押さえてみたが、昨夜の不眠が原因かもしれない。
久我月は安田おじいさんに「はい」と返信しただけで、それ以上は気にせず、データの計算を始めた。
昨夜は眠くなかったわけではない。でも目を閉じると、脳が極度に興奮状態になり、睡眠薬を飲んでも効果がなかった。
