伊藤おばさんは二人分の夜食を書斎に運んできた。鈴木静海と中村楽は書斎にいた。
鈴木静海はパソコンの前で仕事をしており、中村楽は電話中だった。中村楽が電話を切ると、男は「お粥を飲んで胃を温めなさい」と声をかけた。
中村楽は痛む こめかみを揉みながら、一日中忙しかった体は限界に達していたが、鈴木静海はまだ仕事に追われていた。
彼女は知らなかった。軍を離れた鈴木静海が、自分のビジネス帝国を築き上げ、こんなにも忙しい生活を送っているとは。
こんなに命を削るような働き方をして、自分の命も顧みないつもりなのか?
中村楽はお粥を一杯手に取り、すぐに飲み干した。鈴木静海がまだ手をつけていないのを見て、ため息をつきながら「こんなに長く働いているんだから、少し休んでお粥を飲んだら?」と言った。
鈴木静海はキーボードを打つ手を一瞬止め、黙ったまま近くに置かれたお粥を手に取り、静かに飲み始めた。
お粥を飲み終えてから、鈴木静海は彼女に尋ねた。「さあ、何が知りたいんだ?」
中村楽は鈴木静海を一瞥し、直接的に聞いた。「あの夜、曽我雪代と会ったの?女子トイレで?」
「ああ」
鈴木静海は頷き、躊躇なく即答した。
「一介の秘書なのに、なぜ会おうと思ったの?」これが中村楽には理解できなかった。以前、彼女が鈴木静海に頼み込んだ時は、山本飛陽と日光浴をすることになりそうだったのに。
今や大学を卒業したばかりの新入社員が、鈴木グループで働き始めて数ヶ月で、鈴木次郎様が直々に会いに行くなんて。
しかもトイレのような場所で。
鈴木静海はようやく手元の仕事から離れ、椅子の背もたれに寄りかかり、細めた鋭い目で中村楽を見つめ、その眼差しは深い意味を含んでいた。
彼は何も言わず、机の上の携帯電話を取り、中村楽に渡した。「最初のメッセージを見てみろ」
中村楽は不思議そうに携帯を受け取り、パスワードを聞こうとした瞬間、パッと画面のロックが解除された。彼女の顔認証が反応したのだ。
突然ロック解除された携帯を握りしめ、中村楽は一瞬固まった。
昔、鈴木静海の携帯に自分の顔認証と指紋を登録したことを思い出した。