「楽姉、どうしたの?何か発見があったの?」斉田あきひろが近づいてきた。
中村楽は口を開いた。「見て。」
斉田あきひろが見ると、中村楽のベージュ色のゴム手袋に、細かい白い粉のようなものが付着していた。まるで花の粉のようだった。
少し汚れが混ざっていて、斉田あきひろは近づいてようやくはっきりと見ることができた。
斉田あきひろは驚いて尋ねた。「楽姉、これは遺体のどこで見つかったんですか?」
「鼻腔です。」
中村楽は重々しく言った。
このような微細なものは、鼻腔内の異物と混ざっているため、見落としやすかった。
「あの髪の毛のDNA検査はもう出したの?」中村楽は白い粉を保管しながら、遺体を縫合する際に突然尋ねた。
「あ。」
斉田あきひろは一瞬固まり、顔が急に赤くなった。
警察署に戻ってから本当に忙しく、さらにその髪の毛は遺体のものだと思い込んでいたため、まだDNA検査を出していなかった。
「今すぐ行きます。」
中村楽が怒る前に、斉田あきひろは解剖室から飛び出し、髪の毛を持ってDNA検査に向かった。
中村楽はそれほど怒ってはいなかった。まだ研修中なので、多少の不注意は仕方ないと思った。
彼女はすぐに遺体の縫合を終えたが、休む間もなく、伊藤哲の部下に事務所に呼ばれた。鈴木家で何か問題が起きたらしい。
中村楽は足早に事務所へ向かい、唇には既に冷たい表情が浮かんでいた。
伊藤哲は中村楽に座るよう促し、ため息をつきながら話し始めた。「鈴木さんが女子トイレに入ったという情報が、どういうわけか漏れてしまい、今や一面トップになっています。」
「この件が無責任なメディアによって報道され、鈴木さんが殺人犯として仕立て上げられてしまいました。」
「しかし監視カメラの映像を見たのは、私と三人の若手、それにあなただけのはずです。」
彼はこれらの事について話す時、特にイライラした様子で、中村楽を見る目つきだけが少し和らいでいた。「あなたの人柄は私もよく知っています。だから今日呼んだのは、お願いがあってなんです。」
中村楽は何気なくスマートフォンを弄びながら、その言葉を聞いて手を止めた。
どういうわけか、眉間に軽い寒気が走った。