数分後。
「どうしたの?」
中村楽は天空連合のハッカーYで、百里紅裳の体に付けられた信号チップは彼女が開発したものだった。チップが存在する限り、正確な位置を追跡できるはずだった。
しかし、追跡した位置は、なんと道路上に表示されていた!
周辺を調べたところ、この道路は百里紅裳が任務を遂行した場所の近くだったが、位置が全く動いていないということは……
チップが落ちてしまった可能性が高い!
10分後、中村楽は池田滝に電話をかけた。「竜川通りに直接行って確認してください。彼女のチップの位置がそこに表示されていますが、全く動いていません。」
「さっきその道路の監視カメラに侵入したら、誰かが手を加えた形跡がありました。まだ具体的な犯人は特定できていませんが、まずは状況を確認してください。どうしようもなければ、月瑠に報告してください。」
監視カメラが改ざんされた形跡があるということは、百里紅裳に何かが起きたことは間違いない。チップが落ちていたということは、相手がチップの存在に気付いていないということだ。
中村楽は今、百里紅裳が無事なのかどうかもわからない。
とりあえず池田滝の確認を待つしかない。
百里紅裳の件があって、中村楽は眠る気にもなれず、室内を歩き回っていると、ふと机の上に置かれた新鮮なユリの花が目に入った。
突然、何かが頭をよぎり、中村楽は急いでハンドバッグを手に取り、エレベーターで46階の秘書課へと向かった。
鈴木グループが世論の渦中にあるため、秘書課は今残業中で、曽我雪代のオフィススペースもここにあり、遺体もこの階で発見された。
受付は中村楽を知らず、見慣れない顔を見て笑顔で尋ねた。「こんにちは、何かご用件でしょうか?」
「刑事課の法医です。被害者のオフィススペースを確認する必要があります。」中村楽は法医の身分証を提示すると、受付は直ちに彼女を秘書課へ案内した。
受付は角の窓際を指さして言った。「中村法医、あそこが曽我雪代のデスクです。以前刑事課の方々が来られて、机の上のものは全て持ち帰りました。」
中村楽は頷き、オフィススペースを見回すと、曽我雪代の隣のデスクも空いていることに気付いた。