Chapter 210 - 210.隠しきれない喜び

真っ赤なセダンの横で、喬栩は袖をまくり上げてしゃがみ込んでタイヤを交換していた。誰が引っ張り上げようとしても押しのけられた。

彼女の額には血が流れており、その様子は少し目を覆いたくなるほどだった。

夏語默はふらふらと隣の若い女性に寄りかかり、眉をひそめながらタイヤを交換している喬栩を見ていた。

陸墨擎は喬栩のこの姿に驚き、足早に群衆の中を歩いて行った。「喬栩!」

彼は歯を食いしばって叫び、すでに身をかがめて喬栩をタイヤの横から引っ張り上げていた。

喬栩の手には、血とタイヤの泥が混ざっており、見るからに汚く不気味だった。

陸墨擎を見た喬栩は、一瞬茫然としたあと、顔に明るい表情が浮かんだ。「墨擎?!」

その美しい瞳には、隠しきれない喜びが宿っていた。

陸墨擎は彼女のこの突然の呼び方に一瞬戸惑った。喬栩がこのように彼を呼んだのを聞いたのがどれほど前のことか覚えていなかった。

最後に彼女にこう呼ばれたのは、もう4年前のことだった。

陸墨擎の心の先端が、かすかに震えた。まるで何かに強く掠められたかのように、全く落ち着くことができなかった。

彼が呆然としている瞬間、喬栩の汚れた手がすでに彼の真っ白なシャツの袖をしっかりと掴んでいた。「墨擎、私たちの車のタイヤがパンクしちゃったの。交換してくれない?」

喬栩のこの普段とは違う親しみやすさに陸墨擎は少し戸惑ったが、すぐに彼女の体から強い酒の匂いがしたことに気づき、一瞬で理解した。

この女は酔っ払っている。それもかなり酷く。

彼はためらうことなく喬栩を抱き上げた。「怪我してる。まず病院に行こう。」

喬栩はまだ気が進まない様子で何か言おうとしたが、陸墨擎が少し顔を曇らせて言うのを見た。「言うことを聞け。」

口元まで来ていた言葉を、彼女は飲み込んだ。目を見開いて、無邪気で哀れっぽく陸墨擎を見つめた。まるで無害な子鹿のように。その様子に陸墨擎の心は思わず半分柔らかくなった。

ちょうど陸墨擎の帰りを待っていた顧君航は、彼が血まみれの喬栩を抱えているのを見てかなり驚いた。シートベルトを外して車を降り、口を開こうとしたところで陸墨擎が言った。「夏語默があっちにいる。見てきてくれ。」

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