投票事件は大きな波紋を呼ばなかった。ファンたちはまだ墨霆と唐寧の関係に夢中だったからだ。明確な答えが得られるまで、この熱狂は長く続くかもしれない。
しかし夏琳はそれを気にしていなかった。甄曼妮に見せることができれば、この計画は無駄にはならなかったのだ。
甄曼妮が夏琳の提案を黙認したので、二人が海瑞に戻った後、夏琳は墨霆に一度会わせてほしいと頼んだ。
方煜が内線で墨霆の意向を尋ねると、墨霆の承諾を得た。
「曼妮、必ず君のために頑張るわ。安心して」夏琳は階段を上る前に、甄曼妮をじっと見つめ、その瞳は異常なほど誠実な熱を放っていた。
甄曼妮はいつもの通り、面倒くさそうに頷き、態度はやや適当だった。夏琳の姿が自分の視界から消えたときになって初めて、彼女は携帯をしまい、立ち上がって方煜を探した。
「彼女が何を言うか聞きに行きたい」
方煜は肩をすくめ、甄曼妮と一緒に、夏琳より遅れて最上階に上がった。
……
社長室で、夏琳は入室した瞬間から頭を下げてソファに座った。墨霆を見上げる勇気がなかったからだ。芸能人の生死を握るこの男は、たった一言で彼女を地獄に落とすこともできる。
しかし……ここまで来てしまった以上、もう後戻りはできない。
もし墨霆に、彼女が裏で甄曼妮と海瑞の関係を離間させようとしていたことがバレたら、その結末は彼女には予測も制御もできないものだろう。一歩を踏み出した以上、これからの一歩一歩は、もはや身の任せるしかない。
そのため、夏琳は自分の鼓動を抑え、震える声で墨霆に尋ねた。「墨社長……」
「話せ……」墨霆はソファに斜めに腰掛け、茶色のスーツ姿で、その堂々とした体つきを際立たせていた。
唐寧と結婚する前は、墨霆の服の色は主にダークグレーだった。しかし、唐寧が彼の服をコーディネートするようになってから、彼の服の習慣は変わった。
唐寧が選んだものを、彼は着る……
唐寧の指先の温もりが残る服を着ることで、厳しい冬の中、暗い芸能界に向き合う時も、心全体が温かく守られているような感覚を得られた。