彼女はもちろん競争を恐れていなかった。デビュー以来順風満帆だったモデルたちと比べて、彼女は浮き沈みを経験してきたのだから、世の中の冷たさをとっくに見透かしていた。だから、何を恐れることがあるだろうか？愛する人に裏切られ、第三者に踏みにじられ、一流モデル事務所に締め出されるほど苦しいことはない。本当に恐れるべきは、彼女の背後で悪手を打つ人々だ。彼女たちこそが最も転落を恐れている人たちなのだ。
そう考えると、唐寧の心は落ち着きを取り戻し、不安も少しずつ消えていった。
「妻よ、海瑞は私のものだが、私はお前のものだということを知っておいてくれ……だから、お前さえ望めば、芸能界全体を見渡しても、お前の敵になれる人はいない。ただ……お前はそうすることを潔しとしないだけだ」
唐寧は懸命に墨霆の胸に寄り添い、彼の体から温かい匂いを吸い取った。まるで中毒のように、人を虜にし、抜け出すことが難しい。「そうね、あなたがいるわ」唐寧はつぶやくように言った。そう言うと、彼女は自ら身を起こし、墨霆ののどぼとけにキスをした。「あなたが欲しい」
「ん？」墨霆ははっきりと聞き取れず、軽く疑問を込めて「ん」と言った。
唐寧は墨霆の首に腕を回し、彼の耳元でもう一度繰り返した。「あなたが欲しい」
言葉が落ちるや否や、墨霆は彼女を抱き上げ、寝室に向かった。唐寧は満足げに微笑んだ。彼女は最も親密な接触を望んでいた。彼を…彼女の体の中に欲しかった。その味わいは、彼女を墨霆の心臓にさらに近づけ、彼の落ち着いた力強い心臓の鼓動を聞くことができるのだ。
……
夜7時、年間モデル大賞組織委員会は記者会見を開いた。フラッシュライトの集中の下、責任者が壇上に座り、記者の質問を待った。今回のモデル大賞に関する審査員の不正行為についての質問に特に答えるためだった。
「天藝エンターテインメントとアーティストの李昱との契約内容は事実ですか？ベッドスキャンダルに関わる女性主人公は他にもいますか？」
「確かに事実です。現在の調査によると、関係するモデルは主に天藝所属の墨雨柔です。唐寧の名前も挙がっていますが、不正行為の範囲には入っていません」責任者は厳しい表情で事実を明らかにした。
「なぜ唐寧が潔白だと保証できるのですか？」
