"""
*
薬局の前を通りかかったとき、墨夜司は李おじさんに車を止めるよう指示し、薬局に入って塗り薬を買ってきた。
喬綿綿の顔の指痕は消えていたが、まだ赤く腫れていた。
墨夜司は薬を指に取り、優しく彼女の殴られた半分の顔に塗った。
喬綿綿は肌が白いので、顔の傷がとても目立っていた。
薬を塗りながら、彼女の赤く腫れた顔を見て、墨夜司の瞳の色が沈み、周囲の雰囲気が冷たくなった。
墨氏に到着した。
車を停めた後、李おじさんは後部座席のドアを開けた。
喬綿綿はまだ目覚めておらず、李おじさんは坊ちゃまの胸に甘く眠る若奥様を見て、起こすべきか迷っていたところ、坊ちゃまが慎重に彼女を車から抱き下ろすのを目にした。
「行こう」
この言葉を残し、墨夜司は喬綿綿を抱いてエレベーターに向かった。
李おじさんは後ろに立ち、数秒間呆然としてから我に返り、急いで追いかけた。
坊ちゃまは若奥様を本当に甘やかしているな。
若奥様が誰かにいじめられるのを心配して、重要な仕事を置いて彼女を守りに行くなんて。
坊ちゃまにとって、時間は絶対的な金だということを知っているはずだ。
今使った時間で、たくさんのお金を稼げたはずなのに。
今、若奥様を起こさないために、抱いて会社まで行くつもりなのか?!
多くの従業員が見ていたら、きっと驚いて顎が落ちるだろう。
*
墨夜司が乗ったのは社長専用エレベーターで、駐車場から社長オフィスフロアに直行した。
1階のロビーにいる従業員たちは避けられたが、社長オフィスフロアにはまだ数人の女性秘書と男性秘書がいた。
これらの秘書たちが、普段女性に近づかない墨社長が女性を抱いてエレベーターから出てくるのを見たとき、全員が驚愕した。
驚きのあまり、挨拶をするのも忘れていた。
墨夜司が喬綿綿を抱いて彼らの傍を通り過ぎるまで、数人はようやく我に返り、慌てて恭しく呼びかけた。「墨社長、こんにちは」
挨拶を終えたばかりのところ、墨夜司の眉が少し寄るのが見えた。
数人の秘書は彼が眉をひそめるのを見て、顔色が変わるほど驚いた。