古びた駅の廃墟がダイチの前に広がっていた。かつて賑わっていたプラットフォームは今や朽ち果て、記憶の墓場のように見えた。雑草が舗道のひび割れを突き破り、その根が割れたガラス片と絡み合い、薄明かりの中でかすかに光を放っていた。錆びついた車両が線路の上で動かずに立ち尽くし、窓は割れ、外装は時の経過により腐食していた。
ダイチは崩れかけた壁に重く寄りかかり、荒く息を吐いた。最後の戦いで傷ついた右腕がかすかに火花を散らし、むき出しの配線が不満げにヒス音を上げていた。数フィート先には、倒れた敵の巨大な遺骸が横たわっていた。それは刃物のように鋭い手足を持つ、光る甲殻の昆虫のような怪物で、死んでいてもかすかに輝いていた。黒い毒液が壊れた殻から漏れ、その命を失った体の下にプールを作っていた。
「くそ…」ダイチは呟き、火花を散らす腕を押さえた。機械のコアが不安定にハム音を立て、それが彼の苛立ちを反映するかのようだった。周囲を見渡し、異様な静けさがまるで物理的な重さのように彼を圧迫していた。しばらくの間、世界は凍りついたように感じ、風さえもその静けさを乱すことをためらっているかのようだった。
そして、声が聞こえた。
「あなたは完全に人間ではないのでしょう?」
その言葉は、静寂を切り裂く刃のように、穏やかで冷静な声で響いた。ダイチは頭を素早く上げ、青く光る目を細めながら、その声の源に振り向いた。体が緊張し、本能が働いて、無傷の腕を防御の構えで上げた。
影の中から、一人の女性が現れた。
彼女は異常なまでに優雅に動き、その足取りは水のように流れるようだった。その存在は、命令的でありながらも幽霊のように神秘的だった。銀色の髪が肩に流れ、死にゆく光を受けてかすかに輝いていた。彼女の目は、暗闇の中で薄く光り、足元の壊れたガラスに映る彼の目と同じように、ほんのりとした光を放っていた。引き裂かれた服の下に金属のプレートがちらりと見え、その縁は継ぎ目なく、明らかに人工的だった。
「あなたは誰だ?」ダイチは警戒心を込めて問いかけた。彼の声は鋭かったが、慎重さも感じられた。彼は足元をしっかりと踏みしめ、女性が近づいてくるのを見据えていた。
女性は少し首をかしげ、表情を読めないまま答えた。「イズミ。」その声は滑らかで、微かな機械的な響きが彼の背筋を震わせた。「あなたは?」
「ダイチ。」彼は低く、警戒した声で答えた。光る目が一瞬ちらりと点滅し、イズミを観察しながら言葉を続けた。「ここで何が起きたのか知っているのか? みんなはどこに行った?」
イズミは彼の横を通り過ぎ、壊れた昆虫のような怪物の残骸に目を向けた。その顔に影が差し、唇が薄く引き結ばれた。「みんな、消えた。」彼女の声は静かで、どこか奇妙な悲しみを含んでいた。「跡形もなく。だが、あなたはすでにそれを知っていたのでしょう?」
「僕は…」ダイチはためらい、拳を少し下げた。彼女の言葉が身体に物理的な衝撃を与えたように、冷たい不安が胸を貫いた。彼は傷ついた腕を見下ろし、火花を散らす配線が自分の異質さを強烈に思い出させた。「覚えていないんだ。」彼は声を震わせながら言った。「こんな姿で目が覚めた。なぜ…誰なのかも、わからない。」
イズミの光る目が柔らかくなり、鋭い表情が少しずつ壊れて、どこか儚げに見えた。彼女は慎重に一歩踏み出し、その動きは決して攻撃的ではないが、意図的だった。「なら、私たちは同じね。」彼女は静かに言った。その声には静かな理解の響きがあった。「私も目が覚めたときは、こうだった。ひとりぼっちで、混乱して…。それ以来、ずっと答えを探している… 何か、意味のあるものを。」
ダイチは彼女の顔をじっと見つめ、嘘を見破ろうとしたが、そこに自分の痛みが映し出されているだけだった。彼女には何か、説明できないくらい親しみを感じるものがあった。それは彼女の機械的な性質や目の光だけではなく、彼女の立ち居振る舞い、静かな決意が、まるで自分と同じもののように思えた。
イズミの目はしばらく彼に留まった後、再び口を開いた。「もしかしたら、私たちは一緒にその答えを見つけられるかもしれない。」彼女の声はほとんどささやきのように響いた。
ダイチの本能は、距離を置くよう警告していた。こういう世界では、信頼がどれだけ危険かを学んできたからだ。しかし、彼女の目を見つめているうちに、ほんのわずかな希望の光が胸の中に灯るのを感じた。長い間、自分が感じたことのない感情だった。
ゆっくりと、彼はうなずいた。「わかった。」彼の声は落ち着いていたが、慎重さが滲んでいた。「真実を探そう。二人で。」
イズミの唇に、小さな笑みが浮かんだが、それはどこか悲しみに満ちていた。彼女は暗く沈んだ地平線を向いて歩き出し、その銀色の髪が薄明かりに揺れながら、静かな急ぎの口調で言った。「急がないと。」その声には、静かな切迫感が漂っていた。「ここには、あなたが戦ったものよりもっと厄介なものがいる。」
ダイチは後ろの死骸を一瞥し、歪んだ形が影の中に潜む危険を思い出させた。「あんなものよりひどいものがいるのか?」彼は呟き、機械的なコアのハム音が微かに響く中、イズミの横に歩み寄った。
二人の歩調が揃い、空気に微かなハム音が満ちた。壊れた世界を背に、孤独な二人の姿が進んでいく。駅の廃墟は遠くに消え、迫る闇に飲み込まれていった。
ダイチはイズミの横顔に目を留め、彼女の目の光が暗闇を切り裂くのを見つめた。長い間感じることのなかった孤独感が、少し和らいだように感じた。
だが、胸の中で芽生えた希望の炎のすぐ上には、答えのない疑問が雷雲のように広がっていた。イズミは誰だ? 世界で何が起きた? そして、最も重要なことは、彼らが求める答えが救いをもたらすのか、それとも絶望をもたらすのか? 風は、忘れ去られた世界の哀しい響きを運び、夜の影は二人の前に長く伸びていた。