かつて偉大だった都市の骨組みが彼らの前にそびえ立ち、その鋭いシルエットが血のように赤い空に長い影を落としていた。ダイチとイズミは数えきれないほどの荒廃した街並みや壊れた風景を歩き回っていたが、都市の地下に埋もれていたものを発見することは、どんな準備もできていなかった。それは、隠されていた秘密であり、まさに目の前にあった。
ダイチは足を止め、ひび割れたコンクリートの壁に彫られたかすかに光るシンボルに目を留めた。その周りの瓦礫はほとんど通行できないほどだったが、そのシンボル—無限のループ—は明確だった。それはほんのりと輝き、鼓動のように脈打つように感じられ、まるで生きているかのようだった。
「このシンボル…」ダイチの声はほとんど囁きに近かったが、彼の中に深く、埋められた何かを感じさせる重みがあった。彼は手を伸ばし、金属の指先が冷たい彫られた表面に触れた。そこに奇妙な痛みを伴った感覚が湧き上がり、まるで古い夢が再び浮かび上がるような、馴染みのあるものを感じた。
イズミは彼の隣にひざまずき、その輝く瞳を細めながらそのデザインを見つめた。「それ、覚えているの?」彼女は慎重に、好奇心を込めて尋ねた。
ダイチはゆっくりと頷いた。「どうしてかはわからないけど…重要な気がする。前にも見たことがある気がする。」
イズミはダイチとそのシンボルの間を交互に見つめ、考え込んでいる表情を浮かべた。「それ、あなたの過去と関係があると思う?」
「かもしれない。」ダイチは不安そうに答えた。顎をしっかりと締め、深呼吸をした。「確かめる方法はひとつしかない。」
二人は共に瓦礫を押しのけ、光るシンボルの下に隠されたハッチを発見した。それを開けるとき、抵抗する音が響き、暗闇に向かって螺旋状に降りていく金属製の階段が姿を現した。下から上がってくる冷たく淀んだ空気が、錆と腐敗の鋭い匂いを伴っていた。
「準備はできてるか?」ダイチはイズミに目を向けた。
イズミの視線が彼と交わり、揺るぎなく答えた。「いつでも。」
二人は慎重に降りていき、狭く閉鎖的なシャフトで足音が響く。進むにつれて冷気が強まり、合成皮膚に冷たさが突き刺さるように感じられた。暗闇はまるで生き物のように二人を圧迫していたが、どちらも一歩も止まらなかった。
最下層に到達すると、広大な部屋が広がっていた。その広さに息を呑んだ。壁には光を失った、埃と汚れに覆われた滑らかな機械が並んでいる。部屋には微かなエネルギーのうなりが響き、これらの機械は眠っているだけで、死んではいないことを知らせていた。
部屋の中心には巨大なコンソールが立っており、そこには柔らかな、脈打つ光が微かに照らされていた。その光はダイチを引き寄せるように輝き、彼を招いているように感じられた。
イズミは慎重に後を追い、部屋を警戒しながらその周囲を確認した。「ここは一体…?」彼女の声は、うなり声の間でほとんど聞こえないほど小さかった。
ダイチは答えず、すでにコンソールの前に立っていた。手がその表面にかざされると、まるで彼の存在に反応するかのように、光が一斉に輝きを放ち、部屋は冷たい青白い光に包まれた。イズミは突然の明るさに一瞬目を細めたが、ダイチは動かず、その目はコンソールに釘付けだった。その先に全ての答えがあるかのように。
「こ、これは…僕が蘇生された場所だ。」ダイチは少ししてから気づいた。
「あなたに反応しているみたい。」イズミは息を呑み、彼女の声には驚きがにじんでいた。
ダイチが答えようとする前に、コンソールの上にホログラムが現れた。そこに現れたのは年老いた男の姿だった。疲れた目と白髪が刻まれ、苦難の歴史を物語っていた。その表情は、希望と絶望が入り混じった脆いものだった。
「もしこれを見ているのなら、人類は失敗した。」男の声は穏やかだが、悲しみで重く響いていた。「私は高橋新(アラタ タカハシ)。プロジェクト・リバースの創始者だ。」
ダイチとイズミは互いに視線を交わし、不安が彼らの間に広がった。それから、再びホログラムに目を向けた。
「失踪は予告なく始まった。」高橋は続けた、彼の映像はわずかに乱れた。「人々が一人ずつ消えていった。まるで存在から消されたかのように。原因を探しても、どんなに必死に調べても見つからなかった。唯一の解決策は、君を作ることだった、ダイチ。」
ダイチは息を呑んだ。彼の輝く目が見開かれ、衝撃の重みが彼にのしかかった。「僕…僕なのか?」彼は囁いた、その声はほとんど聞こえなかった。
「君は私の生涯の成果だ。」ホログラムの男の声は、悲しみの中にも揺るぎないものがあった。「私は君を私の息子、ヒロに基づいて作った。ヒロは消えた最初の一人だった。君は彼の人格、彼の本質を受け継いでいる。君は人類の最後の希望だ。」
その言葉はダイチに物理的な衝撃を与えた。彼の膝はがくりと折れ、冷たい金属の床に沈み込んだ。手が震え、彼はうわごとのように言った。「僕…僕は本物じゃないのか?」
イズミはそっと膝をついて、慎重に彼の手を握った。「あなたは、私が知っている中で最も本物の人だ。」彼女の声は揺らぎなく、温かいものが込められていた。「誰にも、彼にも、あなたが本物じゃないなんて言わせないで。」
ホログラムは二人のやりとりには気づかず、話を続けた。「この事態を逆転させる鍵は君の中にある。胸の中の失われた部分…それが触媒だ。しかし注意してほしい。使うと大きな代償が伴うだろう。時間は巻き戻るが、君は新しいタイムラインには存在しない。」
ダイチはその言葉を処理しようと手を震わせた。胸の中の空虚感、理解できなかったその部分が、今まで以上に重く感じられた。イズミに目を向け、その声が震えた。「これを使えば、君はひとりぼっちになる。」
イズミの輝く瞳に涙が浮かび、それが溢れ出した。彼女はしっかりと彼の手を握り返し、声を震わせながらも決して揺るがない。「失われた世界で一緒にいるよりも、救える世界でひとりぼっちの方がいい。」彼女は静かにささやいた。
その言葉がダイチの混乱を突き刺し、彼を引き止めるように響いた。周りの機械がうなり声を上げるように、静寂が埋め尽くされた。
ダイチは目を閉じ、心が揺れる中で考えた。この真実は鋭く、受け入れがたいものだったが、イズミの存在—彼への揺るぎない信念—が彼を崩れさせずに支えていた。
「準備ができたなら、この鍵を胸に入れなさい。時間が巻き戻るはずだ。」ホログラムは告げた。その後、テーブルの上に球状の鍵が現れた。その周りには見知らぬ文字が刻まれており、光を放ちながら、奇妙な音が聞こえ始めた。
ダイチはそれを手に取った。彼は自問した、これは本当に失われたものを取り戻すことになるのだろうか?