このような日常生活での小さな矛盾や衝突を、福沢家の誰も気にしていなかった。
食事を済ませた後、北原秀次は式島葉に一声かけて、近くを少し散歩してくると言い、式島葉は彼に戻ってくる時間を指定し、遠くへ行かないようにと言って行かせた——北原秀次は手伝いに来ているので、彼女は弟の面子を考えて、普通のクラブメンバーのように厳しく制限することは避けたが、冬美は引き止めて、しっかり休むように言った。
博多地区は福岡、いや九州で最も繁華な地域の一つで、商店も多く史跡も少なくない。北原秀次は子供たちを連れて少し散策し、子供が好きそうなおもちゃやお菓子を買い、約束通りの時間に旅舎に戻ってきた。
お互いに面子を立て合い、互いを尊重し合う、とてもいい関係だ！
陽子はこの時には福沢家とすっかり打ち解けていて、自然と彼女たちと一緒に部屋に戻り、入浴用品を取って風呂に入って寝ようとしていた——この旅舎には大浴場があり、旅行客の疲れを癒すための特色の一つとして営業していた。
冬美は陽子の様子を見て、声をかけた：「一緒に行きましょう！」彼女は陽子を一人にはできなかった。もし何か起きでもしたら北原秀次に顔向けできないからだ。
彼女の一声で、秋太郎という小さな男の子を含む福沢家全員と陽子は大浴場へ向かい、みんなで気持ちよく温泉に浸かった。陽子がまだぼんやりしている間に、雪里に真っ白になるまで体を洗われ、夏織夏沙にベビーパウダーまでつけられた。
この姉妹は美意識が高く、とても おしゃれだった。
陽子は部屋に連れ戻されてようやく我に返った。彼女はまだこのような大家族での生活に慣れていなかった。畳の上で横になり、春菜と夏織夏沙に挟まれながら、雪里は更衣室で滑りそうになったことを旅舎のスタッフの無責任さを文句を言い続け、冬美が暗闇の中で這い寄って二発殴ってようやく黙った。
温泉は睡眠を誘う効果があり、少しうるさくても陽子はすぐに夢の中へ入っていった。冬美は秋太郎を寝かしつけたところで携帯電話の振動を感じ、見てみると眉をひそめ、そっと部屋を出た。
雪里も寝ていなかった。彼女は門番として入り口で寝ていたので、起き上がって顔を出し小声で聞いた：「お姉ちゃん、どこ行くの？」
冬美は振り返って言った：「ちょっと問題が起きたの！」そう言って斜め向かいの部屋に入っていき、雪里も考えた末について行った。
ここは式島葉たちの女子大部屋だったが、この時は正式な参加メンバーが男女問わず集まっていた。真ん中には三年生の方汁利子が痛みに耐えながら下唇を噛んで横たわっていた。
冬美は北原秀次の側に寄って小声で尋ねた：「どうしたの？」
北原秀次は彼女を見下ろして、小声で答えた：「更衣室で転んで、足を少し捻挫して、手首も怪我をしたんだ。」彼は北条鈴たちの仕業ではないかと疑っていたが、証拠がなかった。旅舎のスタッフが謝りに来た時も非常に腹立たしかったが、どちらもお客様なので何も言えなかった——当時方汁利子は風呂を済ませて先に着替えに行き、ロッカーの前で突然転倒した。最初は事故だと思われ、式島葉たちは彼女の着替えを手伝い怪我の確認をして部屋に送り届けたが、おかしいと気付いて確認しに戻った時には、そこは既に清掃されていて、誰が掃除したのかも分からなかった。
式島葉もこの件について悩んでいたが、怒りはなかった。彼女は率直な性格だが是非をわきまえない人間ではなく、この件は完全に雪里を責められないことを理解していた。臆病者だけが、そんな状況で自分の子供が殴られていじめられるのを見過ごすだけだ。それに、彼女と北条鈴には深い因縁があり、今回の件が誰を狙ったものかはまだ分からない。もしかしたら実際は彼女に軽い怪我を負わせようとしたのかもしれず、方汁利子が早めに帰ろうとして代わりに災難を被ってしまったのかもしれない——彼女が剣道を非常に好きなことは秘密ではなく、彼女を知る人はほとんど知っている。本当に恨みがあるなら、試合を台無しにすること以上に彼女を苦しめる方法はないだろう。
そのとき雪里はすでに向きを変えて正座し、彼女に頭を下げて言った。「式島部長、私が責任を取ります。試合に出させてください、お願いします！」
式島葉は驚いて顔を上げ、「あなた？以前剣道の試合に出たことがないって言ってなかった？」雪里は彼女が陸上部に推薦した生徒だったが、今年の試験成績が悪すぎて正選手になる資格がなく、大会に出られないだけだった。
当時冬美が雪里を連れてきたとき、彼女も雪里が冬美と同じように強いのではないかと考えたが、冬美は雪里が剣道の試合に出たことがなく、ルールもよく分からないと断言し、妹を陸上部に入れることを主張した。その後彼女も気にかけることはなかった。
雪里は断固として言った。「はい、ありませんが、今回は頑張ります……」
式島葉は一瞬躊躇し、痛みに顔をゆがめている親友を見て、また頭を下げて正座している雪里を見た。雪里は非常に申し訳なく思い、すでに方汁利子の代わりに出場することを決意していた。立ち上がって周りを見回し、部屋の隅の剣袋から竹刀を一本抜き出し、重さを確かめると少し軽くて慣れない感じがしたが、それでもすぶりの構えをとって一気に振り下ろした。すると部屋にいる全員が一陣の風を感じたが、不思議なことにその一撃は無音だった。
彼女は固く言った。「……怪我をした姉の代わりに出場させてください！」
式島葉は目利きで、すぐに目を輝かせ、少し不満そうに冬美を見つめ、即座に決断を下した。雪里に尋ねた。「学生手帳持ってる？明朝すぐに選手名簿を変更しに行くわ。」
「持ってます、今すぐ取ってきます！」雪里は振り返るとすぐに走り出した。これは必ず持っているはずだ、この国には身分証明書がないので、外出時は学生証で身分を証明するしかないのだから。
彼女は風のように行き来し、すぐに戻って学生手帳を式島葉に渡すと、再び方汁利子の傍らに正座して不器用に慰め、怪我が治るまで絶対にチームを敗退させないと約束した。
冬美も止めなかった。しばらく考え込んでから部屋を出て行き、北原秀次は心配して後を追い、静かな声で注意した。「全て名古屋に帰ってからにしよう。それに、これは僕の問題だから、僕が処理するよ！」
冬美は彼を横目で見て、「いつも一人で大将面するのはやめなさい、これはみんなの問題よ！」
彼女は向かいのドアを開けて入り、すぐに夏織夏沙という二人の小さな子を引っ張り出し、命令した。「今日私たちに迷惑をかけた奴がどこの学校の、何歳で、どんな友達がいて、普段どこに行くのか、全部調べてきなさい！」
夏織と夏沙はまだ眠そうな目をしていたが、同時に冬美に手を差し出した。冬美は二人に一発ずつ平手打ちを食らわせ、怒って言った。「早く行きなさい、小遣いの話は帰ってきてからよ！」
夏織と夏沙は叩かれて目が覚め、お互いを見つめ合い、北原秀次を指さして甘えた声で言った。「私たちはあなたを信用できません。お兄ちゃんに保証人になってもらえたら行きます！」
冬美は今気分が少し悪く、小さな顔を曇らせて彼女たちを強制的に働かせようとしたが、北原秀次は急いで止め、笑って言った。「保証人になるのは問題ないけど……」
北原秀次の信用度は非常に高く、夏織と夏沙は彼が小遣いを増やすことを保証すると聞くと、彼の言葉が終わるのも待たずにその場で変身し、二人の小さな忍者のように向きを変えて廊下を忍び足で走り去り、音もなく瞬く間に姿を消した。北原秀次は少し心配そうに尋ねた。「彼女たちを行かせて大丈夫？」
春菜を派遣するか、自分で行った方が信頼できると感じた。
冬美は頭を下げたまま怒りを募らせており、おそらく名古屋に帰ってから相手に福沢五姉妹が草食動物じゃないことを知らしめる方法を考えているところだった。虎も熊も蛇も狐も揃っている、種類は確実に完璧だ——馬鹿な北条鈴め、私に卑劣な手を使うなんて、本当に私をそんな可愛くて優しい少女だと思ってるの？待っていろよ、名古屋に帰ったら仲良く親密になってやるわ！
彼女は心の中で復讐の手段を考えながら、さりげなく言った。「彼女たちが一番適任よ、心配する必要はないわ。この二人の抜け目ない子たちは四歳の頃から可愛く演じて情報を集めることを覚えて、あちこちで商売してるの。笑うときは笑い、泣くときは泣いて、少なくとも何百人もだましてきたわ……あなたの写真と個人情報を1枚1000円で学校の門の前とネットで何十枚も売ってるけど、知らなかった？」
北原秀次は愕然とした。本当に知らなかった。この二人の抜け目ない子たちはいつもおとなしく可愛らしく見えたが、裏でこんなことをしていたのか？彼も馬鹿じゃない、小さな子供たちが軽々しく言っているのを見て全く気にしていないことに気付き、彼女を見つめて尋ねた。「何十枚？そのお金は？」
冬美は首を傾げて得意げに言った。「私が没収したわよ、文句ある？店の収入として計算して、後でみんなで分けるわ。この二人の抜け目ない子たちが独り占めしようとしても無理よ！」
これは独り占めの問題じゃないだろ？北原秀次は厳しく警告した。「彼女たちにそんなことをするなと言ってください！」
冬美は天を仰いで無言で三度大笑いし、「あなた、彼女たちがみんなあなたのことを好きだと思ってるでしょ？自分で言ってきなさいよ、私には関係ないわ！」と言って自分の部屋に入っていった。
この馬鹿者、私たちの家で二日も過ごしただけでみんなが言うことを聞くと思ってるの？自分が子供の面倒見が上手いと思って得意になってるでしょ？はっ、甘いわね。この子たちは一人として扱いやすい子なんていないのよ、あなたはまだまだ青いわ！いつも大将面したがってるでしょ？今度私がこれまで受けてきた苦労を味わわせてあげるわ！