寺田佐理菜は、臼井真広が彼女の横を通り過ぎ、最後に寺田凛奈の前で止まるのを目の当たりにした。
彼は腰を曲げ、紳士的に手に持ったバラの花を差し出した。「渡辺さん、お友達になる栄誉を賜れませんでしょうか?」
「……」
寺田佐理菜は驚愕して目を見開き、目の前の光景を信じられない様子で見つめた。
バーの照明が少し暗かったため、彼女は自分が夢を見ているような気がした。真広お兄さんがなぜあのデブ女の前に行ったの?
寺田凛奈も、このような劇的な展開が起こるとは思っていなかった。彼女と臼井真広は全部で2回しか会っていないのに、彼は婚約者になりそうだった人を捨てて、彼女に求愛しに来たの?
しかし、寺田佐理菜の驚きと怒りで歪んだ顔を見て、先ほど彼女に腹を立てていた気持ちが少し和らいだ。彼女は興味深そうに唇の端を上げ、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
彼女の笑顔は、氷山の上に咲く雪蓮のように鮮やかで、臼井真広の目を輝かせた。
彼がさらに何かを言おうとしたとき、寺田佐理菜はもう抑えきれずに鋭い声で叫んだ。「真広お兄さん!」
その声を聞いて、臼井真広はようやく横に立っている寺田佐理菜に気づいた。彼は眉をひそめた。「なぜここにいるんだ?」
寺田佐理菜はまだ、照明が暗すぎて真広お兄さんが人違いをしたのではないかと空想していたが、この一言で最後の希望も砕け散った。
彼女は怒りに満ちた目で寺田凛奈を見つめた。「この下劣な女!恥知らず!」
彼女は叫んだ後、手を上げて寺田凛奈に向かって殴りかかろうとした。
臼井真広は直ぐに彼女を遮り、顔を暗くして言った。「寺田佐理菜、何をしているんだ?ここで魚売りのおばさんみたいに大声で騒ぐな。」
寺田佐理菜は怒りで目を赤くした。「あなたが彼女をかばうの?あなたは知らないの……」
「もういい!」臼井真広は彼女の言葉を遮った。「寺田佐理菜、今の自分の姿を見てみろ。渡辺さんのような、上流家庭の娘としての品格と態度を少しは学べないのか?」
寺田佐理菜は呆然とした。「あなた、彼女を何て呼んだの?彼女が誰か知らないの?」
臼井真広はこの質問に戸惑った。「渡辺さんだけど……」