水仙花街2番地、夕暮れ色に染まったリビング。
クラインは出窓に背を向け、フライとレオナルドに言った。
「占いの結果、夢でブルーグレイの2階建ての家を見ました。1階の窓はすべて閉じられていて、カーテンが引かれてました。周囲数メートルの土は黒褐色で、草一本花一つ生えていませんでした。それから荒れ果てた暗い庭がありました、ホラーによく出てくるような。」
「唯一場所を特定する目印となり得るのは、近くに川が流れていることです。比較的広い川です。」
「恐らくタソック川か、ホーイ川か、しらみつぶしに探すしかありません。間に合うといいのですが。」
タソック川はルーン王国最大の川で、西北のミルミンスク山脈から東南に向かって流れており、インランド・シー郡、アフワ郡などを通過し、首都ベークランドを通り抜け、ピューリッツ港付近で海へ流れ込む。
ティンゲン市とは西区の南西部と南区の南の埠頭区で接している。ホーイ川は北のヨーク山から東区郊外の大学区に流れ、そこでタソック川に合流する。
つまりティンゲン市の周囲には主要河川が2本あり、他はいずれも小川と呼ばれるもので、広い川面は持っていない。
クラインの説明を聞き終えると、肌が青白く冷ややかな気質のフライが微かに頷き、相手の考えに同意した。
他に手掛かりがない状況では、しらみつぶしに調べることが唯一効果的な手段だった。
その時、レオナルドが笑顔で口を開いた。
「目的の建物がある範囲を狭めることができると思います。」
「どう狭めるんです?」クラインは唐草模様が彫られた銀白の懐中時計を手に、眉を寄せ問い返した。
レオナルドは笑い声を立てた。
「こういった計画と目的のある犯罪者は、最初のターゲットを祭壇から遠く離れたエリアで選ぶものです。安全を求める本能ですからね。」
「他のエリアの『死を待つ者』が少なくなって、見つけにくくなってから、近くで捜すことを考えるでしょう。」
「だから、私たちはもう一度資料をめくって、死亡事件の数が最初は正常だったのに、ここ数日急増しているエリアを選べばいいんじゃないでしょうか。」
クラインはそれを聞き、目を輝かせた。
「素晴らしい推理です!」