「ダスト・グデーリアン。グリーンヒル精神病院に勤務する医者だ……」
クラインはヘンリーの言葉を心の中で繰り返しつつ、「観衆」、そして心理錬金会のメンバーと目される医者とどう接触するか、考え始めていた。
これに関してはあまり危険を冒したくなかったし、夜を統べる者に疑われたくもなかった。交換のためだけに使う情報や資源のために、今の生活を失う気はなかった。
それに、男性は「観衆」である可能性が高い。特別な訓練を受けた人間でもない限り、自分の本当の目的や考えを隠しおおせることは、ほぼ不可能だった。
「人を介して秘密裏に進めるか?いや、介在する人間を増やすと、問題が起きやすくなる……そうだな……事実の一部だけを相手に示すって方法はどうだろう。医者に見せる表情や身振り手振りに示される考えは本当のものだ。ただしそれは全体の一部でしかない……」
クラインはダスト・グデーリアンに関するヘンリーの話を聞きながら、危険を最大限回避しながら目的を達成するための方法について考えをめぐらせる。
そうするうちに、これまで見てきた犯罪映画やスパイ映画からヒントを得た。
「よし……この方法でいくか。ただ、事前に何度も予行演習をしておかなければ……」クラインは心の中でうなずくと、ヘンリーの話に再び全神経を集中させた。
「ゴホン……」ヘンリーは咳払いをした。「赤い煙突の件に関してはまだ調査中だ。ティンゲン市にはそういう建物はいくらでもあることは知ってるだろう。もちろん、手がかりが他にもあれば、調査はずっと楽になるが……」
クラインは笑うと、かすれた声で言った。
「他に手がかりがあるなら、あなたたちにはお願いしてませんよ。」
正直なところ、調査がこれだけ長くかかっていることで、クラインはその結果について悲観的になり始めていた。背後で操っている存在はクラインの占いを察知しているはずだ。隠れ家を移す時間は十分にある。
だからクラインは、居住者の情報からさらなる手がかりを手に入れることだけを考えていた。
そしてそれには7ポンドが必要だ……考えるだけでやりきれない気持ちになる……ヘンリーの説明が終わると、クラインはステッキを手に別れを告げ、外に出た。
……