クラインは金属製の小瓶のふたを開け、鼻の先に持っていった。やや刺激のある、気持ちが奮い立つような香りがした。
小瓶の中身は、スリープフラワー、竜血草、深紅の白檀、ハッカなどの薬草を調合して作られた「聖夜パウダー」だ。簡単に作れるため、クラインは地下取引市場で材料をそろえた後、その場で調合しておいたのだった。それがこうして役に立つ時が来た。
クラインは「聖夜パウダー」を少し手のひらに出し、気持ちを落ち着け、瞳の色を暗くした。
それから小瓶をしまい、粉末を指でつまむと、そこに霊性を込め、地面に撒いた。
クラインは粉末を撒きながら、シリスの死体を一周した。
すると、見えない壁が突如出現し、内側と外界を完全に隔てた。
クラインは手のひらに残っていた「聖夜パウダー」を払うと、別の金属製小瓶を取り出し、中の「アマンダ」フラワーウォーターなどの液体を次々と四方に撒いた。
クラインが儀式を行う順序は、ニールがルエル・ビーボの家でやってみせたのとは少し違う。それは、願う内容が異なれば、望む結果も異なるからだ。
例えば、ニールは先に液体を撒いてから「聖夜パウダー」を撒く。こうすることで、正式な祭壇に準じる静謐さと神聖さを醸し出すことができる。一方、クラインは先に「聖夜パウダー」を撒いてから液体を撒く。それは、クラインの目的が、シリスの残留霊が周囲の事物の干渉を受けないようにし、儀式に必要な最低限の環境を作り出すことにあるからだ。
——もしクラインがニールの方式で儀式を行えば、シリスの残留霊が駆除されてしまい、対話をすることが不可能になってしまう。
準備を終えると、クラインは材料をしまい、瞑想状態を保ちながら、低い声でヘルメス語の呪文を唱えた。
「我は黒夜の力を求めん。」
「我は秘密の力を求めん。」
「我は女神の加護を求めん。」
「我に祭壇内の邪教徒の霊と対話させたまえ。」
……
閉ざされた環境で呪文がこだまするにつれ、クラインは猛烈な、恐ろしい、秘密の力が降臨してくるのを感じた。
クラインの瞳は、瞳孔や白目が見えなくなるほど、完全に黒色に変わった。
そのタイミングを捉え、クラインは心の中で「占いの言葉」を唱えた。