「作家?」オードリーはグライントの反応を観察しながら、何気ない様子で尋ねた。
あとに続く話は普通の話だったため、彼女は傍らにいた、身の回りの世話をする侍女アニーを遠ざけることはしなかった。
グライントは身体を伸ばすと、ハハハと笑って言った。
「そうなのです。君はきっと彼女の作品を読んだことがあることでしょう。ここ2カ月ほど、方々で評判な『嵐の山荘』です。」
「わたくしもその本を気に入っていますわ。特に冷静なシシー女史のことが。」オードリーはそっと微笑みながら答えた。
同時に彼女は心の中で、偽りの自分に対して冷ややかな視線を送った。
なぜなら彼女は最近、小説には全く興味がなかったからだ。『嵐の山荘』は3分の1まで読んだところで、もう1カ月も放置していたのだ。
タロット会に加入し、有力な愚者と知り合い、本物の超越者になってから、彼女は自分の持つ神秘の知識を整理し、心理関係の内容を体系的に学んでいるため、他のことにはそれほど興味を持たなくなってしまった。
グライント子爵はオードリーをソファーのある客間へ案内しながら、満面の笑顔でこう言った。
「それなら君はきっとフォルス・ウォール女史に良い印象を持つと思いますよ。彼女は嵐の山荘のシシ女史同様、冷静で頭が良く、アンニュイな雰囲気の人ですから。」
「それから私の親愛なるオードリー様、後ほど私や他のゲストのために、ピアノを演奏していただくことは可能ですか。これは文学や小説にとって、いちばんの褒賞です。」
オードリーはグライントの横顔を眺めると、彼の表情、口調や一部の所作から、何か自慢するものが欲しいという気持ちを感じ取った。
彼はわたくしを、自慢のための道具にする気だわ……オードリーはまるでこの親しい友人と初めて知り合ったかのように、そう思った。
彼女はエレガントな笑みを浮かべながら言った。
「わたくしの音楽教師、ピアニストのヴィカーナ先生は、最近、私のレベルが明らかに落ちたとお感じになられたようで、私にもっと練習が必要だとおっしゃいましたの。」