深夜、風通りは良いが、ひっそりと静かな地下で、ガス灯のぼんやりとした光はガラスカバーに守られ、揺れ動くことなく安定して無人の静かな廊下を照らしている。
クラインは当直室の中に座り、前に積まれた新聞や雑誌、本などを気ままにめくりながら、少しの注意力を外に向け、誰かがチアニーズの扉に向かって来るのを警戒していた。
彼のコートとシルクハットは入口のポールハンガーに掛けられ、ステッキは壁の取りやすい位置に立て掛けられている。
濃厚なコーヒーの香りが漂い、クラインは何気なく一口飲むと、こめかみをもみ、頭の重さと体の疲れをほぐした。
地球で大学生だった時は、よく明け方の5時に眠りにつき、昼の12時に起きる猛者だったし、就職してからの2、3年の間もたまに徹夜をしたが、それでも翌日は元気ハツラツに出勤していた。だがそれらはみな、面白いゲーム、面白い小説、面白い映画、バラエティー番組やドラマがあったからだ。
だがこの世界にはこうした徹夜の必需品はない。
「ロッセール大帝も偉そうにするなら完璧にやってくれよ、限りある命を無限の事業につぎ込んで、異世界の人民を率いて情報化時代に突入させてくれ!」クラインは心の中で文句を言って自分を慰めるしかなかった。少なくとも新聞、雑誌とますます豊富になりつつある小説がある。
彼は最初は勉強に集中して眠気に打ち勝とうと思っていたが、実際にやってみると、それは職責と両立しないということが分かった。勉強に集中してしまうと、外の動静に注意が向かなくなり、チアニーズの扉のことを忘れてしまうのだ。
ふっと息を吐いて、クラインはコーヒーカップを持ち上げ、そっと吹いた。
少し飲むと、口内にコーヒーの香りが広がり、液体がゆっくりと食道を流れていく。
「パース河谷のフィルモアコーヒーか、苦いな。でも目が覚める。」クラインは称賛の声を上げ、カップを置いた。
パース河谷は南大陸にあり、良質なコーヒーの産地だ。今はインディス共和国とルーン王国の争いの渦中にあり、それぞれパース河谷の左岸と右岸に植民政府を樹立し、もとのパース王国を消滅してしまった。